新設代表セットプレーコーチ・菅原大介氏 セカンドボール支配へ“こぼれ球”の立ち位置追求せよ
11・21開幕 カウントダウン・カタール
今年1月、日本代表スタッフに「セットプレーコーチ」が新設された。現代サッカーでは得点機会の3割ともいわれるセットプレー強化を託された菅原大介コーチ(44)は、セカンドボールの重要性に着目。W杯アジア最終予選を通じて物足りなかったセットプレーの得点力向上を狙ったプロジェクトの張本人に現状を聞いた。
日本協会・反町康治技術委員長の「セットプレーの強化」という特命の下、代表チームに初めてセットプレーコーチが誕生した。全ての年代別代表を担当する重要な任務に就いた菅原コーチは「強豪相手に最後の最後でセットプレーで勝てるような展開が究極の理想」と意気込んでいる。
菅原コーチは反町氏が監督を務めた08年北京五輪にテクニカルスタッフとして同行。当時からセットプレーを重要視していた反町氏にノウハウを伝授された。その後もJクラブで経験を積み、W杯を前に満を持して代表スタッフに抜てきされた。「多くの指導者から勉強させてもらった」と振り返る。
セットプレーコーチの日々の仕事は至って地味だ。多いときには1日8時間ほどモニターとにらめっこ。試合映像を見てセットプレーの傾向を分析し、現場に対策を伝える。ただし、仕事量は膨大で「W杯までには1次リーグ対戦国はもちろん、対戦する可能性のある国は全てまとめる」という。試合後は映像を基に、現場コーチと議論してフィードバック。「自分は現場には出ない。完全に裏方としてサポートをしている」と説明する。
中村俊輔や本田圭佑といった強烈なプレースキッカーは不在の森保ジャパン。バリエーションの一つとして菅原コーチが着目したのは「セカンドボールの立ち位置」。いわゆるコーナーを含めたフリーキックの“こぼれ球”への対応だ。参考にしたのは専任コーチがいるプレミアリーグのリバプールだった。
菅原コーチによると、コーナーキックの場合、ゴールに向かって曲がっていく「インスイング」のボールを相手がクリアしようとすると正面にはじかれる傾向がある。逆に、ゴールから逃げていく「アウトスイング」の場合は、側頭部でそらすため、蹴った方とは逆サイドにボールがこぼれていく可能性が高かったという。
分析成果に手応えをつかんだのは、24年パリ五輪世代で臨んだ今年3月のドバイ杯U―23だ。カタール戦後半40分の左CK。FW鈴木唯人が右足で蹴ったインスイングのボールは相手DFにクリアされるが、ペナルティーエリア中央付近にいたMF山本理仁が押し込んで2―0とした。「セカンドボールの反応から得点が取れたことで、確かだなと思った」。新たな戦術が加わった瞬間だった。
強豪相手にワンチャンスで勝利をたぐり寄せる、ドラマ性を秘めているのがセットプレーの醍醐味(だいごみ)の一つ。かつて、J2大分コーチ時代には田坂和昭監督とともにセットプレーを研究し、12年J1昇格プレーオフではスローインを起点にした決勝ゴールで昇格を決めた。その経験も踏まえて菅原コーチは言葉に力を込めた。「ほとんどの方がセットプレーに絡んだ大きな試合を経験していると思う。僕だけじゃなく、いろんな人の人生を左右している。セットプレーコーチとして、1ランク上のチームと戦うために準備していきたい」
◇菅原 大介(すがわら・だいすけ)1978年(昭53)5月4日生まれ、千葉県出身の44歳。東海大時代にプロ指導者を目指し、筑波大大学院で学生コーチを経験。08年北京五輪のテクニカルスタッフなど年代別代表のコーチを歴任。Jクラブでは千葉や大分でコーチを務め、20年は栃木でヘッドコーチを務めた後、今年1月から日本協会のセットプレーコーチに就任した。
《森保ジャパンのセットプレー得点率は11%》ジーコ監督以降の得点(オウンゴール除く)のうち、直接FKの得点+FK、CKのアシストからの得点の合計を見ると、絶対的キッカーの中村俊輔らが活躍したジーコジャパンでは112得点中19点(17%)、オシム監督が36―9(25%)、岡田監督が82―14(17%)と得点全体の18%がセットプレーから生まれていた。しかし、それ以降は得点率が下降。森保ジャパンでは120得点中13点の11%まで低下しており、セットプレーの強化は課題となっていた。(数字はデータスタジアムから)
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