ネガティブな自分に別れを告げて 名古屋の柿谷曜一朗インタビュー
C大阪から名古屋に完全移籍した元日本代表FW柿谷曜一朗(31)がオンラインによる本紙のインタビューに応じ、移籍の経緯や名古屋への思い、愛する家族の支えなど赤裸々に現在の思いを語った。
――名古屋に加入して3週間が経過した。
「メチャクチャ楽しんでます。今まで当たり前だったC大阪の日常はゼロになったけど新しい発見があるし、楽しいですね」
――フィッカデンティ監督から求められる役割は。
「攻守で連動していたからこその去年の順位。守備力は落とすわけにはいかないから、オレも100%で取り組むのは大前提。でも監督からは“お前がゴールを取るんだ”と。目に見える結果、ゴールを取ることを一番求められていますね」
――皆が驚くようなプレーをすると常に口にしている。
「それはカッコ良く言っているだけで、オレはサッカーがしたいだけなんです。サポーターであったり、オレを応援してくれる身近な人であったり…。そういう人を喜ばせたい。実はサッカーをしている意味が見つかりにくかった時期になっていた。ずっと同じ事を考えてプレーしてきたつもりだったけど、どっかで“オレがクラブにしてきたことは間違いだった”とネガティブなC大阪の柿谷になってしまっていた。プレー以前に悩んでいた部分があったんです」
――どんな面で。
「クラブにはいろんなタイミングがありますよね。でも、どんな時でも“これがあるからC大阪は良いクラブ”と言える自分の中で大事にしてきたものが少しずつ崩れてきて…。最後は自分が崩れてしまった。そうした中、サッカー人生を楽しみたいと考えていた時に名古屋がオファーをくれたんです」
――過去にはG大阪やドイツのオファーを断ったこともある。それでも今回は環境を変える必要があったのか。
「かなり。良い意味でも悪い意味でも慣れすぎてしまっていたんです。まあ悪い意味の方が強かったかな。離れてみて、あたらめて思うのは迷惑を掛けていたなと。選手やスタッフには気を使わせていた。長くいすぎて、だから甘えというのか居心地は良かったけど、たぶん、この居心地の良さは違う。チャレンジしなければと感じましたし、名古屋の熱意もうれしかったです」
――大久保嘉人の復帰は残留の要因にはならなかったのか。
「嘉人さんの花道を用意するのは自分の役目だとは思っていた。でも花道を演出できるほど理想とするオレではなかった。オレが絶対的な8番でいて、嘉人さんを送り出すなら分かる。でもそうじゃないし、嘉人さんもうれしくないと思う」
――家族は今回の移籍を何と。
「僕が苦しんでいたのは妻が一番知っている。C大阪で輝くオレも好きだし、違うチームで輝くオレでも良い。ただ苦しんでいるのは見たくない。自分が引っ張ってきたもの、プライドも捨てたらいいんじゃないと言ってくれていた。まあ妻は残留するんじゃないかとも思っていたみたいだけど、悩む前に行くと決断しました」
――新しい柿谷曜一朗をつくるのか。
「新しいとかはやめてください。柿谷曜一朗は生まれた時から柿谷曜一朗ですよ。今まで積み上げてきた波瀾(はらん)万丈な経歴はまっさらにならない」
――現在31歳。大久保や家長ら30歳を超えた選手の再ブレークはある。
「家長さんや嘉人さんは元々がバケモンですから。それに50歳超えていてもプレーしている方がいるのに30歳でどうこう言えるわけがないです。自分が衝撃を受けたロベルト・バッジョのように、子どもたちにはなぜサッカーを好きなのか、なぜサッカーをやっているかと聞かれた時に名前を挙げてもらえる存在にはなりたい。やっぱスゲェと思ってもらいたいです」
――今季の目標は。
「タイトル獲得はもちろん。でも1年後、全日程が終わった時に名古屋ファミリーの皆さんに“来てくれて良かった”と思ってもらえることですね。今季はACLもあります。僕、国際大会強いんですよ。よ~く点を取っているイメージが自分でもあるので。なので最後まで付き合ってくださいね」
◆柿谷 曜一朗(かきたに・よういちろう)1990年(平2)1月3日、大阪市出身の31歳。4歳からC大阪の下部組織で育ち、06年にクラブ史上最年少の16歳でプロ契約。09年に当時J2の徳島に期限付き移籍し、12年にC大阪へ復帰。13年から背番号8を付け、同年リーグ34試合21得点。東アジア杯でA代表デビューも飾った。W杯ブラジル大会出場後の14年夏にバーゼル(スイス)に完全移籍し、16年にC大阪へ復帰。21年から名古屋へ加入。妻は元タレントの丸高愛実。国際Aマッチ18試合5得点。1メートル77、68キロ。
<取材後記>
少々の驚きを隠せなかった。個別取材したのは昨年2月のキックオフカンファレンス以来。当時は仏頂面で、受け答えも適当な印象を受けた。だが今回のインタビューでは満面の笑顔。こんなに笑う柿谷曜一朗を見たのは久々だった。
記者はC大阪を担当したことがない。ただ、柿谷とは12年頃に共通の知人を介して話す機会に恵まれた。そうだった!元々の彼は担当でもない記者にも丁寧な受け答えをする、こんな感じの好青年だった。笑顔は逆に言えば、彼の昨年までの悩みの深さを物語っているような気がした。おそらく背中の荷物が重く感じた時も多かっただろう。桜色から赤色にユニホームが変わる今シーズン。ピッチ内で“ポジティブな柿谷”がたくさん見られることを願っている。(サッカー担当・飯間 健)
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