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“市民クラブ”甲府の挑戦 J1通算7年目のタイトル獲りへ正念場

[ 2016年3月23日 10:00 ]

 総力~プロヴィンチア(イタリア語で市民クラブの意味)の挑戦~をスローガンに掲げる甲府が、J1通算7年目のシーズンを迎えた。第4節を終えて1勝1分け2敗だが、内容はまずまずだ。

 2006年に初めてJ1に昇格したが、2年間で降格。10年に再び昇格したが、1年で降格。13年に三たび昇格して今年で4年目。「初めてJ1に上がって11年目。そのうちJ1に7年いるから11分の7、これは凄いこと」と海野会長は胸を張る。クラブの歴史を見れば、夢のような結果だ。

 01年1月、当時“親会社”だった地元新聞社から派遣された海野一幸さんが社長に就任して、クラブの運命は変わった。当時は年間の営業収入は1億8000万円とJ2でも最下位。親会社と言っても多額のスポンサー料を負担しているわけではなかった。それどころか4億5000万円の累積赤字で、クラブは存続の危機だった。経営陣は総退陣し、海野さんの任務もクラブを整理することだった。

 サッカーはよく知らなかった海野さんだが、関わってみると、山梨県のサッカー熱やサポーターの熱さに胸を打たれた。地域おこしの可能性にもひかれた。地域の企業や商店、病院などを回って看板広告を集め、行政の支援も取り付けた。単価は安くても数が集まれば大きい。サッカーが地域の話題になり、観客も増え始めた。相乗効果で収支は改善、チームも少しずつ強くなっていった。入れ替え戦では6億8000万円の甲府が34億円の柏を破ってJ1に昇格。収入は13億円、6億円と増え、累積赤字もなくなった。

 だが、大企業を親会社を持つクラブとの差は埋めようがない。「市民クラブはせいぜい15~20億円、親会社があるところは30億円ぐらいある。伍して戦うのはなかなか難しいが、これはしょうがないこと」

 確かに歴代J1優勝チームを見ると、浦和(三菱自動車)鹿島(住友金属)G大阪(パナソニック)など、もともと大企業のサッカー部が前身のチームばかり。99年に母体クラブが実業団ではない清水が第1ステージで優勝したが、年間王者にはなれなかった。それだけ、戦力を整えるのには資金が必要だということだ。

 「この先もサッカーはなくならない。地域で盛り上がって、地域対抗戦みたいになればいいし、岡山や熊本のようにキャパの大きな地方チームが強くなれば、やり方によって変わってくる」と、海野さんは分析する。

 09年に移籍規定が変わり、契約満了の選手は、前所属チームに移籍金が入らなくなった。資金力のあるチームがより強くなった。甲府も柏、佐々木(ともに現広島)阿部拓(現FC東京)伊東(現柏)ら、主力が次々と引き抜かれていった。「二極化して弱肉強食になるから反対した。市民チームは毎年のようにいい選手を獲られてしまう。プロ野球のドラフトのような制度を作る必要があるかも」と海野さんは笑う。

 昨年、クラブ創立50周年をJ1で迎えた。観客動員も人口比から見ればまずまず。看板の数も微増している。松本、岡山など甲府型のクラブが増えている。いつかプロヴィンチアとして何かタイトルを獲るという夢に向かって、挑戦は正念場を迎える。(記者コラム・大西 純一)

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2016年3月23日のニュース