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W杯から1カ月半…駒野が語った「涙と再生」

[ 2010年8月15日 08:43 ]

ワールドカップから1カ月半が経ち、あらためて心境を語った駒野友一

 W杯南アフリカ大会から1カ月半、日本代表として活躍した磐田のDF駒野友一(29)にじっくりと聞いた。決勝トーナメント1回戦のパラグアイ戦でPKに失敗したこと、家族の支え、今後の夢など。駒野がここまで切り替えられたのは家族のおかげだった。

 もう涙はいらない。駒野は言う。「PK失敗から得たものなんてない。今思い返しても悔しさ以外ないです。ぼくはうれしいときは涙は出ない。もう泣きたくないですね」。広島に在籍した07年、J2降格決定時に目を腫らして以来、3年ぶりの苦い味。もう2度と味わいたくはない。
 6月29日、W杯南アフリカ大会決勝トーナメント1回戦、日本―パラグアイ。0―0の熱戦の行方はPK戦へ委ねられた。2―2で迎えた3人目、日本のキッカーは駒野。勢い込んで右足で放ったボールはクロスバーに阻まれた。「PKには自信があった。正直疲れていたわけでもないし、ピッチが緩かったわけでもない。(外した)原因は分からないです」。はじかれたボール。頭を抱え天を仰いだ駒野は、その後肩を組み合うイレブンの列に加わった。「味方が蹴るときは入れてくれ。相手が蹴るときは(GK川島)永嗣止めてくれと思っていました」。無情にもその思いは届くことがなかった。
 そして泣いた。MF松井に抱かれた肩を震わせた。取材エリアでは報道陣に対応することもできなかった。「ロッカールームを出るときはもう止まっていたんですが、(当時の日本協会)犬飼会長に励まされて、また泣いてしまって…。関係者から声を掛けられる度に泣いていたので。ホテルに帰ってから妻(映己子さん)に電話したんですが、声を聞いた途端にまた泣いてしまって、何を話したかあまり記憶にないですね」。目前で消えてしまった日本史上初の8強。駒野の肩に重くのしかかっていた。
 敗戦後、人と目を合わせることができなかった。「試合後のロッカーで他の選手から慰めの言葉をいろいろ掛けてもらいました。でも目を合わせることはできなかったですね。(帰国した関西国際空港でも)できるだけ端っこの方を歩いていました」。それでも「自分にはサッカーしかない」と言う駒野。前を向くしかなかった。「すぐにJリーグが再開することは分かっていたし、このままの気持ちではチームにいい影響を及ぼさないと分かっていた。切り替えないといけないと思いました」。敗戦後の涙の理由を「責任」と言った駒野。言葉数は少ないが誰よりもチームのことを考える男が出した必然の答えだった。
 愛娘の存在も大きかった。5月10日、W杯メンバー入りが決まった時、長女・京香ちゃん(3)から「W杯おめでとう。頑張ってね」という手紙と、折り紙の輪をつなげて作った首飾りをもらった。2度目の世界舞台へ力をもらったのが家族なら、戦い終え負った傷を癒やしたのも、また家族だった。7月2日に帰国後、クラブからは1週間のオフが与えられ家族旅行に出かけた。「国内で南の方の海があるところ」。場所こそ明言しないが、水入らずの時が“切り替え”の後押しをした。「特に子供から何か声を掛けられたことはないですね。そこまでまだ分かっていなかったと思いますし。ただ、海で遊んでいるとき、子供はずっと笑っていた。自分も笑わないといけない。一緒に楽しまなければいけない。そう思わされましたね」。異国での1本のキックが奪った笑顔。それを取り戻させたのは愛娘の天真らんまんなそれだった。
 サポーターからも励ましを受けた。クラブには約2000通のメールが届いた。地元和歌山では和歌山県スポーツ特別賞授与式に小学生からお年寄りまで約250人のファンが訪れ受賞を祝った。「ビックリしたけど、うれしかったですね。あれだけの言葉を頂いて、勇気を頂いた。PKの失敗で自分はどん底まで落ち込んでいたけど、気持ちもドンドン戻ってきた」。温かく迎えてくれる存在が駒野を前に向かせた。
 今後の夢について、3度目のW杯と海外リーグへの挑戦を掲げる。「(海外挑戦は)今回のW杯を経験することで、高いレベルでプレーし続けたいという気持ちが強くなりました。好きなサッカーはスペインですね。ボールをつなぐ一番きれいなサッカーをしている。(W杯ブラジル大会に)出たい気持ちはもちろんあります。でも、その前に磐田でタイトルを獲りたい」。まずはJリーグ、そして磐田にW杯の経験を還元し、恩返しをしていくつもりだ。
 ◆駒野 友一(こまの・ゆういち)1981年(昭56)7月25日、和歌山県海南市生まれの29歳。広島ユース―広島―磐田。J1で251試合11得点。01年U―20、04アテネ五輪、06年W杯ドイツ大会、10年W杯南ア大会日本代表。1メートル72、76キロ。血液型O。

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2010年8月15日のニュース