【アニ漫研究部】「ドラフトキング」クロマツ氏「野球を描くけど野球漫画とは思っていない」

[ 2022年11月19日 11:30 ]

クロマツテツロウ氏お気に入りの照屋(右)が本塁打を打った場面。左上が主人公の郷原(C)クロマツテツロウ/集英社
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 人気の漫画やアニメを掘り下げる「アニ漫研究部」。今回はプロ野球のスカウトマンを描く人気漫画「ドラフトキング」のクロマツテツロウさんにインタビューしました。WOWOWでの実写ドラマ化も決定した注目作。作品に込めた思いと漫画家人生を前後編でお伝えします。

 「ドラフトキング」は、その名の通りプロ野球のドラフト会議がテーマの漫画。主人公は架空の球団「横浜ベイゴールズ」のスカウト・郷原眼力(ごうはら・オーラ)。全国各地の逸材を見つけ出して選手を指名、獲得まで導くスカウトたちの戦いを描く。2018年からグランドジャンプ(集英社)で連載が始まり、今月17日には最新の単行本13巻が発売。来年春にはWOWOWで実写ドラマが放送されるなど、今最も熱い野球漫画の一つだ。

 クロマツ氏がドラフトやスカウトを題材としたのは理由がある。

 「野球漫画を描くにあたり、まずは高校野球が頭にありましたが、これはやり尽くされてしまったかなと感じていました」

 野球漫画は、高校野球が花形のイメージ。甲子園で行われる春夏の全国大会が国民的行事として親しまれ、読者にも分かりやすいのが大きな理由だ。トーナメント方式で、一度負ければ終わりというのも分かりやすい。だが長く花形であり続け、数々の名作が生まれてきたことで、新たな切り口を見つけづらくなっているとの指摘もある。

 「それなら大学野球や社会人野球、独立リーグも面白いので、多くの人に知ってほしいという思いがありました。でも、なかなか企画が通らなくて…。もしかしたら地味な印象を受けるのかもしれないと思ったので、だったらプロ野球のスカウトを主人公にすれば、プロを含めて全部のステージを描けると思ったんです」

 劇中で主人公・郷原は、指名時の順位に関わらず“ドラフト同期”の中で最高の成績を残す選手を「ドラフトキング」と呼ぶ。スカウトとしての哲学が表れた言葉だ。周囲が即戦力と期待される選手に注目しがちな中、実績にとらわれずに選手の実力や将来性を評価し、獲得を目指す。傲岸不遜で、獲得のためには手段を選ばないようにもみえる郷原のキャラクターも魅力的だ。

 「自分では、野球漫画と思って描いていないかもしれません。野球にかかわる方々の人生の話だと思っているので…」

 それは、扱うテーマが多岐にわたるからこその言葉だ。確かに野球漫画としては、試合描写は短めだ。だが、郷原が同僚たちと衝突しながら選手指名の理由が明かになる過程に、クロマツ氏の野球観や、プロアマ含めた野球界全体への問題提起がにじみ出る。中学から社会人、プロまで、あらゆるカテゴリーの野球事情が事細かに描かれる。スカウト同士の戦いを軸に、選手の人生や家族の思い、所属チームや進学先の監督ら周囲の大人の思惑も描かれる。

 それでも、やはり根底にあるのは、もちろん野球愛。イチオシ場面を聞くと、郷原のスカウト活動ではなく、一見地味な選手の活躍場面を挙げた。

 「やっぱり照屋です。照屋が輝いているシーンが全部好き」

 照屋とは、沖縄県「石垣商工」の9番ショート。身体能力に秀でたものはないが、いわゆる“野球IQ”が高い選手。ズバ抜けた能力を持つエース仲眞頼みに見えるチームで、野球センスの高さやリーダーシップをもってチームの司令塔を担っている。球数制限や怪我を隠しても投げ続ける仲眞の姿を中心に「甲子園第一主義」や、進路を巡る高校と大学との駆け引きなどのテーマが描かれるエピソードで、クロマツ氏は照屋の活躍を第一の見どころに挙げる。

 「もちろん仲眞や比嘉監督をはじめとする、このエピソードに出てくるキャラクター全てに思い入れはあります。でも、やっぱり照屋なんです。草野球でお会いする人たちにも、ありがたいことにドラフトキング読者がいらして、皆さん照屋が好き(笑い)それがうれしい」

 描くカテゴリーが幅広い分、設定は細部に至るまで練り込んでいる。

 「たくさんの人が出てくるから“年表”が厚くなって大変です。サザエさんのように時間や時代が止まっている話じゃないので」

 物語は、郷原が注目する選手の活躍からドラフト本番までを、描くのが基本パターン。その後の活躍などが後日談として差し込まれることもある。章ごとにクローズアップする選手が違い、時系列が前後することもある。そのため、クロマツ氏は「年表」を作って管理している。

 「例えば、中国地方の大学野球で活躍する選手2人を描いた章がありますが、一方は指名されてプロ入りし、一方は社会人に進んで2年後のドラフトで指名されます。その後の章で元プロ選手が、社会人で活躍する話があり、社会人に進んだ選手とは対戦する可能性もある。描き進めていく中で、選手たちが活躍する時期が重なることが十分あるので、注意しながら描いています」

 選手の進路によっては、舞台が重なる可能性もある。しっかり年表を作らなければ矛盾が生じることになる。

 「僕と担当編集者さんでダブルチェックしてます。じゃないと間違えちゃうので(苦笑い)。大卒で社会人に行けば2年はドラフトにかけられないし、高卒なら3年はかけられない。それも年表でチェックしなくてはいけない。開催時期的に、ドラフトの評価に繋がる季節かどうかも注意が必要。いろいろ気をつけることがあります」

 「大学野球の日本選手権や社会人の都市対抗を見て回ったり、大きな大会から予選まで、タイミングが合えば行きます。担当さんも野球が大好きなので、よく一緒に見に行きます」

 実在のスカウトにも取材している。

「伝説のスカウトと呼ばれる方にもお会いしています。裏側を描かれるのを嫌がる人はいないか?いないです。今はめちゃくちゃクリーンですから。クリーン過ぎて、多くの球団が1位指名を誰にするか公言までしている。それは(漫画的には)たまったもんじゃない(笑い)。球団同士のバチバチとした本来の駆け引きがお話し合いで決着しているような感じがして物足りないです…。逆指名があった頃に活躍していたスカウトさんの話の方が面白いです。『もっと描いてくれよ。昔はこんな事したったでぇ~』みたいな方もおられますよ」

 取材先は、これまでクロマツ氏が歩んできた“野球漫画家”としての人生で培った人脈が生きている。次回はクロマツ氏の漫画家人生について語ってもらいます。

 ◆クロマツテツロウ 11月17日生まれ、奈良県出身。県立西の京高卒業後、宝塚造形美術大学(現宝塚大)絵画学科に進学し、油絵を専攻。2005年、「とんずらmy way」が、ちばてつや賞(ヤング部門)で準優秀新人賞を受賞。11年「バーコードロボ」が小学館新人コミック大賞入選。13年から月刊少年チャンピオン(秋田書店)で連載の「野球部に花束を~knockin’ on YAKYUBU7‘s Door~」が今夏、実写映画化。18年からグランドジャンプ(集英社)で連載中の「ドラフトキング」が来春、WOWOWで実写ドラマ化予定。またゲッサン!(小学館)で「ベー革」連載中。「ヤキュガミ」など野球漫画多数。

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