大友康平 故郷・塩釜に勇気と希望を――「癒やしになれるのであれば歌うことが使命」

[ 2021年3月9日 05:30 ]

東日本大震災から10年――忘れない そして未来へ(9)

宮城県塩釜市で行っている音楽フェス「GAMA ROCK FES」で歌う大友康平
Photo By 提供写真

 被災地ゆかりの人たちが「あの日」の生々しい記憶とその後の10年を振り返るインタビュー企画。第9回は宮城県塩釜市出身で、音楽で被災地にエールを送り続けるロック歌手・大友康平(65)です。

 震災1カ月後の11年4月17日、大友は100人ほどが避難していた塩釜ガス体育館を訪れた。支援物資を運び、炊き出しを行った。「温かいものが食べたい」。被災者のリクエストに応えて、豚汁を大鍋で100人分以上こしらえた。頬張る人々を見て、ホッとした。

 その時に、何人もの人から「歌ってくださいよ」と言われた。体一つで現地に入り、楽器も音響機材もない。体育館の踊り場に立つと、アカペラで歌いだした。坂本九さんの「上を向いて歩こう」とHOUND DOGの代表曲「ff(フォルティシモ)」。聴衆の中に一緒に歌を口ずさんでいる年配の女性がいた。「人に勇気を持ってもらえる歌をたくさん歌ってきて良かった」。無力だと思っていた自分も、力になれると実感した。

 あの日は、東京・渋谷のホテルでテレビ番組の取材中だった。揺れを受けて、テーブルの下に潜った。「四つんばいになると、地面から揺れが凄い伝わってくる。怖かったですよ」。頭に浮かんだのは2日前のこと。3月9日、岩手県奥州市でテレビ番組のロケ中に震度5弱の地震に遭った。「ゴォーッという地鳴りがして、木の電信柱が左右に大きく揺れていた。ただただビックリした」。これが前震だった。

 塩釜で生まれ、仙台市の東北学院大のサークルでHOUND DOGを結成。音楽の道に進むことを決めた。その東北のためにできることは、やはり歌しかない。12年から塩釜市で音楽フェス「GAMA ROCK FES(ガマロック)」をスタートさせた。塩釜市出身の写真家の平間至氏らが中心となり、毎年開催している。

 ここで必ず歌う曲がある。震災3カ月後に親交のある作家・伊集院静氏(71)と共作したチャリティー曲「ハガネのように 花のように」だ。

 「曲を作ろうという話になって、すぐにファクスで3、4行の詞が送られてきたんです。“ハガネのように 花のように”。ここにビビッときた。まさに東北の人を表している言葉」。その日のうちに曲を完成させた。「この曲を歌うたびに、風化させない、復興への気持ちを持ち続けるんだと思ってる」

 「まだ10年」と言う。「目に見えるものは作ればいいけど、心に負った大きな傷は簡単には治らないと思う。音楽が癒やしになれるのであれば、ロック歌手ですから、歌うことが使命だと感じています」と力を込める。

 コロナ禍で歌う機会が制限され、ガマロックも昨年はオンラインでの開催だった。「ロックのライブは3密の極致。でも、いつ呼ばれても歌えるように、体を鍛えて、準備するだけです」(伊藤 尚平)

 ◆大友 康平(おおとも・こうへい)1956年(昭31)1月1日生まれ、宮城県出身の65歳。76年、東北学院大在学中に「HOUND DOG(ハウンド・ドッグ)」を結成。80年に「嵐の金曜日」でデビュー。85年に「ff」をリリースした。90年に映画「ゴールドラッシュ」で初主演。映画「パッチギ!」(04年)など俳優としても活躍。

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