永野芽郁「半分、青い。」撮了「朝ドラ=大変は嫌」“朝ドラヒロイン像”に「自分を縛りたくはないです」

[ 2018年9月12日 05:00 ]

ヒロインを務めた連続テレビ小説「半分、青い。」の撮影を振り返った永野芽郁(C)NHK
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 NHK連続テレビ小説「半分、青い。」(月〜土曜前8・00)のヒロインを務める女優の永野芽郁(18)が全撮影を終えた心境を明かした。左耳が聞こえない鈴愛役に入り込むあまり、実際に耳の不調に陥るなど、悪戦苦闘の日々。それでも、共演者の支えをパワーに変え、約10カ月の長丁場を乗り切った。「“私にしかできない役”がこの世に存在できたことがすごくうれしい」と芝居の魅力を再認識。今後については、いわゆる“朝ドラヒロイン像”に「自分を縛りたくはないです。私は“私”としてやっていきたいです」とし「どんな役にも対応できるような俳優になりたいと思います」と一層の飛躍を誓った。(木俣 冬)

 「クランクアップしてから、お母ちゃん(晴役の松雪泰子)とおじいちゃん(仙吉役の中村雅俊)の舞台を見に行って、その時、お母ちゃんに『鈴愛は芽郁ちゃんにしかできないよねえ』と言ってもらったんです。“私にしかできない役”がこの世に存在できたことがすごくうれしくて。それが鈴愛で良かったなぁと思います」

 左耳の失聴というハンディキャップを持ちながら、めげることなく持ち前のバイタリティーとアイデアを駆使して生きる楡野鈴愛の10代から40代の波乱万丈の人生を演じ切った永野。8月17日夜にクランクアップして4日後に自身のブログに思いを吐露し「耳が本番中に聞こえなくなって」「色んなお薬を処方して頂いて」などと包み隠さず書きつづった。その数日後のインタビューで体調について聞くと「徐々に普通に戻っています。1年のうちに誰しも風邪をひくことはあるもので、それがたまたま撮影の時にかぶっちゃったというだけで、大したことはないです」と気丈に返した。

 「撮影中の取材に『大変です』と答えないようにしていました。楽しいこともたくさんあったし、『朝ドラ』イコール『大変』という印象が付き過ぎることが嫌だったから」

 耳の不調は、片方の耳が聴こえない鈴愛の役に没頭するあまりの思いがけないアクシデントだった。

 「鈴愛は左で、私は右でした。左耳が聴こえない分、右耳で聞こうと意識し過ぎて疲れちゃったのかもしれません。ドラマの中では四六時中、左耳が聴こえない描写があるわけではなかったとはいえ、私自身は常に耳のことは意識していました。すると、相手が左側にいても全く聴こえないわけじゃなくて、慣れてくると意外と聞こえることもあるのだと分かりました」

 その感覚をつかむまでは耳栓をしていたこともある。

 「できるだけ聴こえない人の気持ちになれるようにとやってみたら、平衡感覚が取れなくなっちゃって…。でも、リアルを実体験できたことは良かったです」

 永野が約10カ月向き合った鈴愛は自分に足りない部分を創意工夫で補っていた。演じる永野は「先輩俳優たちと一緒にいたら、足りないと思うことだらけです」と語る。それを埋めてくれたのは…。

 「足りないものは自分1人では補えませんから、誰かに助けてもらって何とかするしかありません。朝ドラも鈴愛という役も自分だけでは絶対作れませんから、共演者の皆さんからパワーをもらって、それを自分の中にためて思い切り吐き出して、またそれを吸い取ってもらって…という循環作業の毎日でした」

 共演者のエネルギーも取り込んで増幅した鈴愛のパワーはとにかく強烈で、毎朝、視聴者を圧倒し続けた。

 「真っすぐだしタフだし、これをすると決めたら曲げない。ものすごくパワフルなエネルギーがあって、それがすごく良い方に回ることもあれば悪い方に回ることもある」と役を分析し、演じていて「疲れますよね、あれだけ勢いあったら」と笑った。

 「叫ぶシーンが多く、喉はかれましたし、何より精神的に堪えました。演じている永野芽郁と役の鈴愛と、2つの心がぶつかり合い過ぎて、なかなかしんどかったです」

 最初は鈴愛と私は似ていると思っていたら、次第に似てない部分も出てきて戸惑うこともあった。そんな時に支えてくれたのも共演者たちだ。

 「皆さん、声を掛けてくることはしない、こうした方がいいとか頑張ろうねとかも、一切言わない。それがすごく居心地よかったです。『頑張ってるね』と応援されてもまだまだ頑張らなきゃいけないし、『大変だね』と労われても『大変だよ』で完結してしまう。だからこそ、ただ傍にそっと寄り添って一緒に現場で闘ってくれる。朝『おはよう』と普通に始めて『じゃまた明日ね』と普通に終わっていく現場が私にはすごく楽でした。そういうふうにしてくださった皆さんが本当に大好きです」

 この約10カ月、本当の家族といるよりも長く一緒に過ごした楡野家の人々、故郷の幼なじみたち、東京で出会った親友たち…を演じた多くの仲間に支えられて、ようやくたどり着いたクランクアップの日に脚本家・北川悦吏子氏(56)の言葉が染みたと言う。

 「『あなたは決して大変とは言わずに大丈夫と言うけれど、大変だったでしょ』と言われて『とても大変でした。でも北川さんの方が長い時間をかけて、登場人物の人生を描き、たくさんの言葉を生み出していて、こちらは台本をできるだけくみ取って演じるだけだから、北川さんの方が私よりも大変だったと思います』と答えたんですが『私たちが一番大変だったと思う。よく頑張ったね』と改めて言ってくれました」

 朝ドラは長丁場、月曜日に1週間分のリハーサルをして火曜から金曜まで撮影。主人公は朝から晩までほぼ出ずっぱりだ。物理的にも過酷な上、18歳の若さで40代まで演じないといけない難易度の高い課題も付いてくるが、台詞もト書きもその通りに再現することに心を砕いた。例えば、高校時代の第26話(5月1日)。上京を反対され、農協内定も祖父・仙吉の口利きと分かり、鈴愛は「この家はウソつき家族や」と家を出る。梟商店街を歩くシーンは台本に「ひっく、ひっく」と泣き方が具体的に書いてあり、そこもしっかり再現していた。ひたすら台本を覚えて演じ、どんどん先に行く。嵐のような日々だった。

 2009年に映画「ハード・リベンジ、ミリーブラッディバトル」で女優デビュー。「ニコ☆プチ」「nicola」「Seventeen」などでモデルとして活躍する一方、15年に映画「俺物語!!」でヒロイン役、16年にテレビ東京「こえ恋」でドラマ初主演。16年にNHK大河ドラマ「真田丸」、17年に映画「帝一の國」「ミックス。」などの話題作に出演し、着実にステップアップしてきた。

 「『半分、青い。』の現場を経験してから、女優というお仕事がすごく大好きになったし、相手役と目を合わせてお芝居することがすごく楽しいことだとも思えるようになった一方で、女優というお仕事がとんでもなくつらいということも感じました。この仕事の魅力を再確認して、今回ご一緒できた方々とまた違う役で向き合ってお芝居をすることができたらいいなという目標ができました」

 朝ドラ後は、真逆の役に挑む俳優も少なくないが。

 「違う面も見せていきたいですし、『この人、役によって全然違う』と言われるようにもなりたいです。どんな役にも対応できるような俳優になりたいなと思います。もし、また鈴愛みたいな役を求められた時には、鈴愛を超えられる確信が持てたら、またやってみたいです」

 9月24日に19歳になる。伸び盛り、夢いっぱいの年頃だ。そんな彼女が演じた鈴愛は漫画家、結婚、離婚…と流転しながら、やがて「おひとりさまメーカー」の可能性と出会う。祖父・仙吉は第117話(8月15日)で鈴愛に「人間っちゅうのは、大人になんかならへんぞ。ずーっと子どものままや」と言う。これから大人になっていく永野にとって、こういう人生観を体現する時、どんな気持ちだったのだろうか。

 「以前、北川さんに大人になった鈴愛の口調が変わらないことを相談した時、『人って変わらないから』とおっしゃっていました。これからもっと生きた結果、何も変わらないと考えるようになるかもしれないですが、今、18歳の私は、人は変わっていくもので、でも、その中で決して変わらない大事なものもあると思っています」

 そう答える口調は明晰で、瞳は真っすぐ希望に輝いていて、これからの成長が楽しみになった。今後、歴代朝ドラヒロインの1人として語り継がれていくことになるが、それに対する自覚は?

 「朝ドラのヒロインになれることはすごいことだとは分かっています。ただ、朝ドラのヒロインをやったから清楚でなければいけないとか、こうでないといけないというように自分を縛りたくはないです。そもそも、私の素を朝ドラの現場の皆さんも受け入れてくださって、おもしろいねと笑ってくれていたので、もちろん常識はわきまえながら、これからも私は“私”としてやっていきたいです」

 思うまま、真っすぐ突き進み、今の自分を越えていく、大器の予感を漂わせた。

 ◆木俣 冬(きまた・ふゆ)レビューサイト「エキレビ!」にNHK連続テレビ小説(朝ドラ)評を執筆。2015年前期「まれ」からは毎日レビューを連載している。著書「みんなの朝ドラ」(講談社現代新書)は画期的な朝ドラ本と好評。

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