昔は戦争、今はスポーツ…ガッツ氏が感じる“ボクシングの性質”の変化

[ 2016年6月17日 11:30 ]

ガッツ石松

 ボクシング元世界ヘビー級王者ムハマド・アリ氏(享年76)の葬儀が日本時間11日未明、故郷米ケンタッキー州ルイビルで営まれた。アリ氏が亡くなったという一報が日本に流れた4日、記者はゆかりのある日本人として元世界ライト級王者でタレントのガッツ石松(67)を取材した。1976年、アントニオ猪木参院議員(73)との世紀の一戦を日本武道館で見届け、戦前にアリ氏と握手を交わした“伝説の男”だ。

 社内の固定電話からガッツの携帯電話へかけると「前に会ったことあるよね。しばらく」と明るい第一声。だが、記者が連絡を取ったのは初めて。話を聞くと、実は2013年にスポニチ65周年を記念した連載で先輩が取材をしていた。その時に会社の電話番号を携帯に登録していて、あいさつをしてくれたようだ。

 ガッツの気遣いに触れた後、本題を切り出した。世紀の一戦の思い出について聞くと「あれは、俺が東洋太平洋級の王者の時だったな…」。

 だが、いきなりひと言はさまなくてはいけない事態になった。

 「恐れ入りますが、ガッツさん。手元の資料では、世界王者から陥落して1カ月後では?」。

 間違いを指摘するのは申し訳ないと思いながら、事実を確かめる必要もあって言ってみると、ガッツは「あれ、そうだっけ。ガハハ」と豪快に笑い飛ばした。

 ガッツ節の軟らかい“ジャブ”を浴びつつ、試合の感想を問うと「あの試合から得るものはなかった」と不意に鋭い“ストレート”が飛んできた。現役時代の必殺ワンツーパンチ“幻の右”を想起させる会話の緩急だ。

 得るものがなかった理由を尋ねてみると「プロレスとボクシングは水と油だから」。プロレスは組んで技を繰り出し、ボクシングは相手との間合いを計って打ち合う。戦前からかみ合わないことを想定していたという。

 世界中で約14億人が見届けたとされる世紀の一戦は当時“凡戦”と評されたが「試合が実現しただけで価値があった」とも。「水と油は上手に調理すると凄くおいしくなるでしょ。まさに両雄並び立つ。野球で言えば王さんと長嶋さんが一緒にいると絵になるように、スターは動いているだけで十分絵になった」と評価している。

 カリスマの存在感は見る人の心を打つ。今後、アリ氏のようなボクサーは誕生するのだろうか。ガッツ氏はボクシングの性質が変わったとみる。

 「昔のボクシングはやるかやられるか。戦争と同じ。けれども、いまはスポーツ。身体にダメージを残さないことが優先され、どちらかが優勢と判断されたらレフェリーがすぐ試合を止める傾向にある。善し悪しはあると思うが、ファンは本物、偽物をすぐに見抜く。ボクシング出身としてそこは危惧している」。

 「蝶のように舞い、蜂のように刺す」ことのできるカリスマが生まれるのは難しい環境。そんな中でも、ガッツの熱い口調からスター再来を願うストレートが放たれたような気がした。(記者コラム)

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2016年6月17日のニュース