岸部一徳 タイガース再結成“ずっとやろうよ”なんて話が出ないのがいい

[ 2016年5月15日 12:30 ]

さまざまなキャラクターを変幻自在に演じる岸部一徳

俺の顔 岸部一徳(上)

 映画やドラマに欠かせない俳優・岸部一徳(69)。半世紀前、グループ・サウンズ(GS)ブームをけん引した「ザ・タイガース」のベーシストでリーダーの「サリー」として一世を風靡(ふうび)した。俳優に転身し「一徳」の芸名を得てから約40年。着実にキャリアを積んできたベテラン俳優の根底には、意外にも「自信のなさ」が隠れていた。

 タイガース時代の写真を見ると、人気番組に出演したり、ファンに囲まれるなどまさにスター。「キャーキャーは言われていたけど、自分に向かってるキャーキャーじゃないのはよく知ってました」と笑って振り返る。「この時代があって今がある。顔に全然自信はないけど、今見ると“意外といい顔してたじゃない”と思いますね」と懐かしそうに見つめた。

 地元・京都の遊び仲間で結成したバンドにボーカル・沢田研二(67)が加わり、1967年にデビュー。存在が社会現象にまでなったが、アイドル的な路線を巡りグループ内に?藤が生じ、人気絶頂の71年に解散した。

 一番の思い出は日本武道館での解散公演。開演前、69年に脱退したギターの加橋かつみ(68)が来場したことを知り、ステージに呼んでヒット曲「花の首飾り」を歌わせようとメンバーに提案したところ、ドラムスの瞳みのる(69)が「途中で辞めたやつを呼ぶなら俺は降りる」と反発。「武道館で(公演を)できるなんて夢みたいなこと。それなのに、開演寸前までけんかしていたのがいい思い出です」。

 解散後はGSのスターが結集した「PYG」や「井上堯之バンド」に参加したが、75年に音楽から身を引いた。「才能がないということに気がついたのと、結局素人気分が抜けていないというか、勉強をしてこなかったと思い始めて自分の中に自信がなかった。ボーカルは年齢とともに枯れてくるのも含めていい味が出るけど、ベースの場合は枯れた音ってない。辞めるなら独身のうちにと思って辞めたんです」。

 13年12月、タイガース結成時のメンバー5人で44年ぶりに全国ツアーを実施。8公演で10万人を動員する人気ぶりで「音楽をやると少年時代に戻れるようで楽しい」と満喫。一方で「昔と同じメンバー同士が曲のことで反発したり、“間違えたのはおまえが悪い”ともめたり、何十年たっても変わらない。再結成して“このままずっとやろうよ”なんて話が出ず、“これでもう終わりだな”と思いながらやってるのがまたいいですね」と笑う。

 タイガースのサリーだった4年を振り返り「あの4年間が自分の全てという感じがします。もめたり、あっという間に解散したり、そういうところを通って今につながってる」としみじみと話した。

 ◆岸部 一徳(きしべ・いっとく)1947年(昭22)1月9日、京都市生まれの69歳。ザ・タイガースとして67年に「僕のマリー」でデビュー。解散後はドラマ「太陽にほえろ!」のメインテーマのベースなども担当。75年にドラマ「悪魔のようなあいつ」に出演し俳優に転身。09年「大阪ハムレット」では、毎日映画コンクール男優助演賞などを受賞。TBS「99・9―刑事専門弁護士―」(日曜後9・00)に出演中。1男2女がおり、長男の大輔もベーシスト、俳優として活動。 

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