女子生徒誘拐「なぜ逃げなかったのか」は強者の理論

[ 2016年4月3日 16:59 ]

 約2年間行方不明だった埼玉県朝霞市の少女(15)が無事保護された。未成年者誘拐の疑いで東京都中野区の寺内樺風容疑者(23)が逮捕されたが、この事件を巡り、テレビの司会者やコメンテーターの発言、インターネットの書き込みでどうしても許せないことがある。

 「女子生徒はなぜ2年もの間、逃げなかったのか」という言葉である。容疑者が大学生活を送っており、監禁されていた部屋で1人になる時間もあった、2人もしくは1人での外出機会があったのではないか、ということからこのような見方をする人もいる。

 しかし、これは大人の、強者の理論だ。女性なら多くの人が、電車で痴漢にあった、夜道でつけられたという、犯罪に巻き込まれそうなヒヤリとした体験をしたことがあると思う。満員電車で痴漢にあっても、すぐに声は出せない。「ヤバイな」と感じてから、「どうしようか」とパニックになり、時間だけが過ぎた経験がある人は少なくないだろう。

 記者も学生時代や社会人になりたてのころ、夜道で車に乗せられそうになったり、つけてきた男性に一人暮らしのアパートに押し入られそうになったことがある。幸い通行人が通りかかるなどしてことなきを得たが、とっさに声も出なかったし、しばらく恐怖で震えた。「人間は怖いと本当に体が震えるんだなあ」と、どこかで冷静に思ったことを生々しく覚えている。

 大人でもこうなのだ。中学生、しかも誘拐時に13歳の少女が、目隠しをされて車に乗せられ、知らない男の部屋に連れて来られるのはどれほどの恐怖だっただろうか。

 本紙の取材では、1年以上過ごした千葉市のアパートの窓には、カギがないと内側からも開かない特殊なクレセント錠が取り付けられていた。玄関につながるキッチンに行くには、ほかの3部屋から室内ドアを出なければ行けない間取りだった。室内ドアのノブ外側にかぶせるだけで、内側から開かないカギもある。引っ越しの時に持ち去れば、痕跡も残らない。玄関ドアに内側から開けられない細工をしていたともされる。

 窓を割れば、ドアを蹴破れば、外に向かって助けを呼べばという人もいる。子どもを育てていれば、慎重な性格の子がいることを実感する。活発な子はちょっとした所から飛び降りる、泥だらけになる、大きな声を出すことは平気だ。しかし一方で、なかなかお転婆なことに踏み出せない子どももいる。窓を割る発想がなくても全く不思議ではない。

 女子生徒が騒ぎ、逃げようとしていたら、早い段階で最悪の結果になっていたかもしれない。「なぜ逃げなかったのか」ではなく、いま言えることは「生きて帰ってこられて本当に良かった」「2年間よく頑張った」ということだ。監禁状態がどうであれ、13歳の子どもを保護者から引き離し、連れ去り、義務教育を受けさせなかったのは犯罪以外のなにものでもない。そこを見誤りたくない。それが女子生徒の今後の生活を守り、子どもや女性を犯罪の手から守ることになるのではないだろうか。

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2016年4月3日のニュース