「プロフェッショナル」を放送する理由とは

[ 2010年3月10日 07:36 ]

 【「プロフェッショナル 仕事の流儀」チーフプロデューサーに聞く】第3回は、取

材班がロケ中に意識する「撮り切る」とはどういう意味かについて。有吉プロデューサーの考える“プロフェッショナル”についても聞いた。

 インターネットが生活の一部となり久しい。ブログ、ツィッター、掲示板…。誰でも“いま”をリアルタイムで発信できるようになった。この時代に「プロフェッショナル」のようなドキュメンタリー番組はどのような役割を担うのだろうか。有吉プロデューサーには「第3者だからより深く伝えることができる」という思いがある。

 「ドキュメンタリーの大事な部分は、第3者(撮る側)がその人のことを一生懸命考えて、撮るという視点を持っていることなんです。本人が自分の言葉で一方的に発信するものとは、おのずと違うものを伝えることができる。それは、どちらが良くて悪いというものではない。我々は撮って伝えるプロのはしくれだから、その人の凄さ、プロフェッショナリズムみたいなものをより深く視聴者に伝えるのが仕事だと思っている。あらゆるドキュメンタリー番組がわざわざ存在する理由はそういうことだと思います」。

 第3者の視点から番組を作るために、有吉プロデューサーが大切にしていること。
それが対象者を「撮り切る」ことだ。「担当ディレクターの都合でテレビ的に映像を拾ってくるんじゃなく、きちんと相手と全人格的に向き合いましょう、ということを意味している言葉だと思います」。

 「撮り切る」ために長い時間を要する場合もある。

 アニメ映画界のヒットメーカー、宮崎駿監督。メディア嫌いで知られ、カメラの前に出てくることは滅多にない。番組は、大ヒット作「崖の上のポニョ」の構想段階から完成に至るまでの2年半を追いかけた。

 取材は、スタジオジブリのプロデューサーにして監督の盟友である鈴木敏夫氏の協力で実現した。担当者は荒川格(かく)ディレクター。以前鈴木氏の番組を担当した際、宮崎監督にインタビューし、話の内容が底抜けに面白かったことと、その人柄にほれたことがきっかけで取材を申し込んだ。監督から提示された条件は「取材ではなく話し相手として1人で来ること」。荒川ディレクターは“話し相手”としてカメラ片手に巨匠のもとへ向かった。

 有吉プロデューサーは振り返る。「貴重な記録だと思っていますよ。ジブリの人だって、宮崎さんが何をやっているかずっとそばで見ているわけではないと思う。もっと言うと(盟友の)鈴木敏夫プロデューサーだってわからない部分があると思う。荒川だけが知っている宮崎監督。なぜこれだけの密着取材を許してくださったのかわかりませんが、延べ300日くらい撮影させていただきました」。およそ200時間分の映像は、60分と90分の2度に分けて放送された。

「撮影が終了して宮崎さんへごあいさつするために、初めてスタジオジブリへ伺った時のことです。『荒川が大変お世話になりました』と言おうと準備していたのですが、反対に宮崎さんの第一声が『荒川が大変お世話になっています』でした。ずっとそばにいさせていただけたおかげですけど、テレビの歴史でもあんまりないんじゃないかな。荒川は(NHKかジブリか)どっちの人なんだろうと思ってしまいましたね」。

 相手にとって生きていく上での柱となる部分を“流儀”として紹介する。放送を見た本人から、電話で涙ながらに礼を言われたこともあるという。「自分の人生をこういう風に振り返ったことがなかった。本当にありがとう」と。「プロフェッショナル」はある分野において一流の人間の仕事ぶりを紹介する番組でもあり、その人の人生そのものを映し出す番組でもある。

 多くのプロフェッショナルを見てきた有吉プロデューサーは「僕の受け取り方だから、世の中と外れているのかもしれませんが」と前置きして、「130回を越える番組をやってきて、プロフェッショナルという言葉は、いわゆる“プロだね”ということとイコールではない気がしてきた」。

「仕事とは、単にお金を稼ぐためのものだけではない。かといって、生きがいのためだけに働いているわけでもない。全てがない交ぜになっている。収入を得て、生計を立てるものと同時に、生き方や人生が投影される。大なり小なり仕事に関して、そう思って働いている人が多いと思っている」。

 だからこそ、有吉プロデューサーは最後にこう語った。

 「最近の僕のテーマは、“日本という国はプロフェッショナルの国だ”という風に思っている。僕らが知らないプロフェッショナルはたくさんいるはずだから、それをとにかく探してきて、その人のプロフェッショナリズムを伝えるというのがNHKで番組を作っている僕らの大きな使命だなと思っています」。(おわり)

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2010年3月10日のニュース