【内田雅也の追球】甲子園御来光への誓い

[ 2026年1月3日 08:00 ]

初日の出を迎える甲子園球場
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 夏の全国高校野球選手権大会50回を記念した記録映画『青春』(監督・市川崑)は冒頭に真冬の誰もいない甲子園球場全景が映し出される。ゴーゴー、ヒューヒューと冷たい北風の音が聞こえ、青い大きな『青春』の文字が浮かび上がる。

 冬、無人の甲子園は寒いものだ。ところが、実際には温かく感じることもある。

 元日の朝、甲子園球場を訪れた。この聖地で初日の出を拝み、撮影するのは14年連続である。

 風はなく、日の出前だというのに、どこか温かい。御来光を最も早く拝める一塁内野スタンド上段から三塁アルプススタンドを眺める。パープルの空をオレンジが染めようとしている。午前7時12分、黄金色に輝く太陽が見えた。温かく包み込むような光だった。

 冬の甲子園は寒くもあり、温かでもある。

 昨年11月末、阪神監督・藤川球児は12月からオフシーズンを迎えるにあたり「冬眠します」と宣言した。野球一色だった日々を散歩や読書や音楽や釣りで心を整え、豊かにしようとしているのだろう。体はともかく、心には冬眠も必要である。

 日本ではアニメで有名なムーミンも冬眠する。寒さに弱く、雪に閉ざされる冬の間、ムーミンやしきで眠って過ごす。

 トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の冬』(講談社文庫)では眠っていたムーミンが月の光に照らされ目覚めてしまう。外に出て、初めて見る雪について、出会ったおしゃまさんに尋ねる。

 「雪って、つめたいと思うでしょ。だけど、雪小屋をこしらえて住むと、ずいぶんあったかいのよ」。白いがピンクや青く見える時もあり、軟らかいが硬くもなる。「なにもかも、たしかじゃないのね」。この世に絶対はなく多様性に富んでいる。「ものごとってものは、みんな、とてもあいまいなものよ。まさにそのことが、わたしを安心させるんだけれどもね」

 おしゃまさんの話は実に示唆に富んでいる。この曖昧性こそが世界であり、そして人間らしい。

 映画『いまを生きる』で、型破りな教師(ロビン・ウィリアムズ)が授業中、机の上に上り、生徒たちにもうながす。「ここから見ると世界はえらく違うぞ」

 2007年4月1日スタートの当欄は20年目を迎える。視野を広く、物事は一面的でなく、多面的に捉えたい。新年に誓った。 =敬称略= (編集委員) 

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