【内田雅也の追球】阪神が負けなかった理由 ピンチで「あわてるな」

[ 2024年4月24日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1―1DeNA ( 2024年4月23日    横浜 )

<D・神>DeNAと引き分け、マウンドでハイタッチをする岩崎(中央奥)ら阪神ナイン(撮影・平嶋 理子)
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 1―1同点の9回裏、2死二、三塁で嫌な打球が転がった。山本祐大のゴロは遊撃前のボテボテ。木浪聖也はチャージし3バウンド目をハーフバウンドで処理し、一塁送球で刺した。サヨナラ負けのピンチを救った好守備だった。

 「あれはナイスプレーよ」と試合後、阪神監督・岡田彰布は言った。「一番嫌なんよな。あんな変な打球がな」。はじいても、送球が乱れてもサヨナラ負け。内野手として最も緊張し焦る場面だ。

 しかし、木浪は決してあわてなかった。キャンプ地・沖縄で何度か「あわてるな」という木浪の生の声を聞いたことがある。まだ練習試合なので大きな歓声も鳴り物もなく、選手の声が聞こえる時がある。この夜と同じような、当たり損ないの緩いゴロが自分以外の位置に転がると、木浪は「あわてるな」と声をかけていた。ある時は、三塁手・佐藤輝明がボテボテのゴロをさばいていた。

 当たり前のことかもしれないが、プロでもあわてるのだ。そして「あわてるな」という注意は効果があるのだと感心したのを覚えている。

 だから、この夜も自分自身に「あわてるな」と声をかけていたのではないだろうか。そして、阪神が幾度ものピンチをしのいで負けなかったのはあわてなかったからだ。

 特に、救援投手陣である。9回裏から延長12回裏まで4イニング続けて得点圏に走者を背負いながら、決定打を許さなかった。たとえば、もう勝ちはない12回裏を締めた岩崎優は2死一塁(走者=代走・井上絢登)で、偽投も含めると実に7度もけん制を入れていた。あわてなかったのだ。

 空は曇り、時に雨も降って見えなかったが、満月前夜の「十四日の月」だった。高峰秀子が映画『スリランカの愛と別れ』で演じた大富豪ジャカランタ夫人のセリフにある。「インドでは満月より十四日の月を喜ぶわ。満月は明日から欠け始めるけど、十四日の月にはまだ明日がありますからね」。日本エッセイストクラブ賞を受けた『わたしの渡世日記』(文春文庫)に書いている。

 岡田も似た考え方をする。6連勝中だが、昨年は大型連勝中に「勝ちすぎてもあかん」と聞いた。満ちれば欠けるとわかっているのだ。

 この夜も引き分けについて「まあ、しのいでしのいでやったからな」と負けなかった点を評価していた。=敬称略=
(編集委員)

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