ロボット審判 韓国プロ野球“世界最速”導入 ストライク、ボール判定を球審に伝達 「スピード感」後押し

[ 2024年4月9日 05:45 ]

3月9日の自動投球判定システムを導入した斗山ベアーズ・キウムヒーローズ戦でイヤホンを装着した審判(KBO公式サイトから)

 韓国プロ野球(KBO)が、世界のトップリーグで他に先駆けて今季から「自動投球判定システム(ABS)」、いわゆる「ロボット審判」を導入した。2軍では20年8月から導入しており、試験期間を経て3月23日のシーズン開幕から満を持してスタートした。ロボット審判が野球をどう変えるのか。長く韓国プロ野球を取材するジャーナリストの室井昌也氏に導入に至った経緯などを聞いた。 (構成・鈴木 勝巳)

 人工知能(AI)が世界を席巻しようとしている現代。野球界のロボット審判導入も時代の必然なのかもしれない。韓国プロ野球は3月23日に開幕。大リーグよりも早い「世界最速」の導入について、室井氏はまず韓国球界の「スピード感」を理由の一つに挙げた。

 米球界に追随するのは日本と同じだが「韓国はまずやってから、という傾向が強い。そして“やる”とかじを切ってからのスピード感が凄いです」。現在のKBO総裁(コミッショナー)の許亀淵(ホ・グヨン)氏(73)の存在も大きいという。政財界ではなく球界出身初の総裁。「どんどん新しいことをやる」という革新派で、導入を後押しした。

 政府の支援もあった。20年8月に2軍で試験導入した際は国の行政機関である文化体育観光部による「主催団体支援金」を利用した。AI活用のための援助資金で、KBOはこれを元に各球場にトラックマン(高性能弾道測定器)など最新設備を設置。ハード面を整えた。日本のような地方球場での試合開催がほぼないこともプラスに働いた。

 そして「審判の位置づけ」と「合理性」。室井氏は「審判に個性がなく、日本の“名物審判”のような存在は過去にもいないんです」と言う。これまで何度も誤審騒動があり、審判の家族までネット上で攻撃されることもあった。ゆえに審判は批判されることへのプレッシャーが強く「萎縮してストライクゾーンが狭くなるような傾向もあった」という。

 そんな背景から「白黒はっきりつけた方がいい。機械が言うなら仕方がない」という合理的な考えが大勢を占め、ロボット審判導入への道筋を付けた。球界内に反対意見はほとんどなかったという。

 さらに今季から大リーグに倣ってベースの大きさを拡大し、極端な守備シフトも禁止した。2軍では時間短縮へ投球間隔を制限するピッチクロックも導入する。室井氏も「やると決めたら早い」と言う韓国球界の動きは、日本球界にどんな影響を与えるだろうか。

 ◇室井 昌也(むろい・まさや)1972年(昭47)10月3日生まれ、東京都出身の51歳。02年から韓国プロ野球の取材を行う。「韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑」を04年から毎年発行し、韓国では06年からスポーツ朝鮮にコラムニストとして韓国語で執筆。KBOリーグで記者証を発行されている唯一の外国人。ストライク・ゾーン代表。

 ≪打者の身長次第で異なるストライクゾーンの高低≫KBOは2月の春季キャンプ中、各球団でロボット審判の説明会を実施。配布したA4サイズ5枚の資料には打者のイラストなどでストライクゾーンの基準が明記されている。

 ゾーンの高低は、上限がその選手の身長の56・35%、下限が27・64%。例えば1メートル80の選手なら地面から101・43センチと49・75センチの間がストライクとなる。打者の身長次第で高低は異なる。左右はホームベースの幅43・18センチに加え、両サイドの2センチまでをストライクと規定した。奥行きについては、ホームベースの中間の位置と終端の位置から垂直に上に伸ばした面の2カ所でゾーン内を通過するとストライクになる。

 導入にあたり、KBOはトラックマンを各球場のセンター側、一、三塁側の3カ所に設置。このトラッキングデータ(追跡情報)で瞬時にストライク、ボールを判定し、球審の装着したイヤホンにビープ音で伝達される。2軍で試験導入した当時は2秒ほどのタイムラグがあったが、今ではオンタイムに。この伝達を受けて球審は「コール」をする。

 ホームベース上で計測したデータを機械が判定するため、捕手のキャッチングは判定に影響しない。巧みな捕球技術、いわゆる「フレーミング」も不要なものとなる。

 【MLBの現状】大リーグ機構(MLB)は昨季、3Aでロボット審判をテストしたが、2つの異なる手法を試した。一つは全球機械任せ。もう一つは人間が主体で、テクノロジーが補助するもの。球審の判定に、チームとして1試合3度までチャレンジできる。チャレンジすると、投球軌道が場内ビジョンに映し出される。ファンも見ることができるから球場が沸く。判定が覆ればチャレンジの権利を取り戻せる。

 現場で支持されたのはチャレンジシステムの方だ。例えば一方的に大差がついた試合の終盤、今にも雨が降り出しそうな場面など、審判は無形の力で試合をコントロールしてきた。その目を欺く捕手の名人芸ともいえるフレーミング技術も、ファンを魅了する魅力の一つ。ピッチクロック導入直後で2年続けた大きな変革に慎重になったことに加え、娯楽性を高める観点からまだ実験が必要であると考え、今季からの導入とはならなかった。後者の観点としてMLBが求めているものに「安打数の増加」と「三振と四球を減らすこと」があり、そのために最適なストライクゾーンを今季もマイナーでのテストで模索する。

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