【内田雅也の追球】ぬかるみと煩悩「迷いがあるからこそ、悟りを開くこともある」阪神が知るべき言葉

[ 2022年4月13日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1ー2中日 ( 2022年4月12日    バンテリンD )

<中・神>8回、逆転され降板となり、マウンドで顔をしかめる湯浅(左)(撮影・椎名 航)
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 若い湯浅京己に敗戦の責任を負わせるのは酷かもしれない。1点リードの8回裏に登板して逆転を許して降板、敗戦投手となった。

 監督・矢野燿大がクローザーに指名していたが、岩崎優と状況に応じてセットアッパーと両用なのだろう。0―1の展開だった10日広島戦も8回湯浅、9回岩崎だった。

 ともかく、いまだに勝ちパターンの継投が決まったことはない。いまさら書くのも気が引けるが、ロベルト・スアレスが抜けた穴はいまだに埋められていない。

 湯浅が打たれた3安打はすべてフォークだった。クセでも読まれているのだろうか。

 1死二塁から阿部寿樹に中前打を浴びた際の二塁手中継・本塁送球はどうだったろうか。間に合わない本塁に投げたことで打者走者が二塁に進んだ。一塁にとどめておけば、後の展開も違ったかもしれない。

 それにしても開幕15試合目で早くも13敗(1勝1分け)である。どこまで続くぬかるみぞ!

 光明を見るとすれば西勇輝の踏ん張りか。0―0の5回裏2死二塁、鵜飼航丞に投げた5球目フォークはワンバウンドの暴投となって、走者が三塁に進んだ。続く6球目のサインがなかなか決まらない。西勇は何度も首を振り、坂本誠志郎はタイムを取って、マウンドに歩んだ。直接話し合って決め球を選んだ。

 フルカウントからの1球は内角高めへの直球だった。内野へのポップフライ(一飛)に切り、ピンチを脱出した。慎重の上にも慎重に配球を決めていたわけだ。

 だから、1回から7回まで毎回安打を浴びながら無失点でしのいだ。連打を許さず(毎回1安打だった)、ピンチでの慎重さが奏功していた。

 西勇の投球数が108だったのは暗示的ではないか。ボールの縫い目の数、ロザリオ(カトリック教の数珠)の数、そして仏教で言う煩悩の数である。煩悩を辞書で引けば「身心を悩まし苦しめ、煩わせ、けがす精神作用」とある。その横に「煩悩あれば菩提(ぼだい)あり」とあった。「迷いがあるからこそ、悟りを開くこともある」という意味だそうだ。

 人間的な野球である。苦闘が続く阪神が知るべき言葉かもしれない。=敬称略=(編集委員)

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2022年4月13日のニュース