菅野から得た丁寧さ「一つ一つの動作がすごく細かい」 阪神・藤浪インタビュー(下)

[ 2022年2月10日 07:00 ]

阪神・藤浪
Photo By スポニチ

 (上からつづく)

 ――カーブで打ち取ったのは収穫(※3)
 「理想というか、直球、スライダー、フォークと自分が得意で精度の高いボールで抑えられたらそれほど簡単なことはないんですけど。それが究極ですが、現代のプロ野球ではそうはいかないので。高卒で入ってもともと、球種は多彩だった。近年は投球に余裕がないからカーブとか緩いスライダーとかツーシームとかが少なくなりがちですけど。良い状態にあるのは、カーブが1つの表れじゃないかと。梅野さんからサインが出たのも、それだけの状態だったと判断してもらえたのもあるのなかと思います」

 ――ここ数年、使えなかった理由は。
 「カーブ自体に安定感もなかったですし、自分がストライクを取るので精いっぱいだった。どうしても精度の高いボールで勝負をしていきたいところが多かったので。当然、キャッチャーもサインを出しにくいでしょうし」

 ――使えれば投球の幅は広がる。
 「真ん中で良いと思いますし、ポンポン投げられれば投球は変わってくると思います。先発でやっていく上では大きく働く球種だと思っています」

 ――腕の振りがコンパクトに見える。
 「小さく使う意識はしていないですけど、良い具合に力が抜けて腕が大回りしていない部分はあります。コンパクトに見えているのは、より体の軸に腕が巻き付いて投げられているということだと思うので。自分の中では良い傾向ではあります」

 ――菅野投手との自主トレで得たもの(※4)
 「菅野さんのトレーニングって“ぜぇぜぇ”“はぁはぁ”とすごい重いもの持って歯を食いしばってやるものは少ないんですけど、すごく丁寧なんです。一つ一つの動作がすごく細かい。ピッチングフォームのように、再現性の高さをトレーニングで求められているのだと感じました。ちょっとの体のゆがみ、膝が少しだけ内に入ったり、そういうズレの部分を気にして、すごく繊細にやっていますね。自分も意識はしていたつもりですけど、菅野さんの取り組み方はより高い次元というか。こういう意識や姿勢が再現性につながってくるんだと実感しました。ウエートトレーニングなんで当然、重いものは持つんですけど、フォームが崩れるほどのものは持たずに、そちらをメインにやっているのが印象的でした」

 ――トレーニングの引き出しは増えた。
 「自分は重いものメインだったので、菅野さんのようなやり方も両方入れないといけないなとは思いました。あとは神経系の話ですね。足裏、手のひらにセンサーがあって、そこを生かすトレーニングがあるんです。弾力のあるクッションのようなものに乗って足踏みをしたり、柔らかい素材の平均台のようなものの上を歩いたり、突起のあるマットの上で足踏みをしたり。これは今まで全くやってなかったですね。理論としては、足裏が整うことで全身のバランスが整う、と。手のセンサーを使えないと上手にモノを扱えないとか。参考にして取り入れて、キャンプ中も朝ちょっと早出して続けているトレーニングです」

 ――充実した時間。
 「こうした方が良いよ、俺はこういう感覚でやってるよ、という話が多かったので自分にとっては発見もたくさんありましたし、菅野さんのすごみに触れた時間でした」

 ――師事する人を変えたり、拠点を変えたりすることは批判もありそうだが(※5)
 「全然気にしていないですね。いろんな人の話を聞いて、数多く勉強をしたいので。オフに限らずシーズン中もいろんなところに行ってトレーニング、勉強もしますし。良いって聞いたらまず行ってみますし、この治療どうやと薦められたら体験しますし。周りには、劇的に変わると思って行っている、わらにもすがる思いで劇的に変えてやろうと見えているのかもしれないですが、自分は1ミリもそんなことが思ってないです。自分でも、菅野さんと一緒にやったからといって爆発的に良くなるなんて思っていません。過去の例でもダルビッシュさん、マエケン(前田健太)さん、マサさん(山本昌)に教えてもらったり、武豊さんのところにも行きましたし。今回、菅野さんの足裏のトレーニングもそうですけど、良い所を積み上げてトレーニング論、技術論、自分のオリジナルを作りたいので。自分の中では積み重ねであって、マエケンさんに教えてもらったことで続けていることもありますし、ダルビッシュさんから学んだ栄養学のことも取り入れていますし、マサさんに聞いたリリース、体の使い方も意識していますし。行ってみないと分からない。あくまで良いモノを盗みにいっている。盗んで、盗んで、自分の理論ができればオリジナルじゃないですか」 =終わり=

 ※3 昨年はレギュラーシーズン全959球中2球だけ。カーブで奪三振は16年が最後。

 ※4 共通の知人を介して弟子入り志願。1月6日から約2週間、沖縄県宮古列島の伊良部島で実施。軸足の使い方など助言を受け、ワンシームも伝授された。

 ※5 14年オフには前田健太、16、17年オフはダルビッシュ有に弟子入り。拠点も鳴尾浜や東京都内をはじめ、米国テキサス州(18年1月)、鳥取県の「ワールドウイング」(21年1月)など多岐にわたる。

 <取材後記>

 インタビューが進むにつれ“タイトル”が浮かんできた。「藤浪晋太郎は、藤浪晋太郎を諦めない」。だから、そう聞いてみた。持論として明かした一流へのこだわり。トップ戦線で戦えないなら存在する意味がない、という言葉は大阪桐蔭で春夏連覇、1年目から3年連続で2桁勝利を挙げた「光」と近年の不振による「影」をより克明にした。

 質問への答えには実感がこもった。「自分に一番期待しているのは自分自身なんで…」。年を取っても、成績が落ちても、どれだけ批判されても「まだできる、まだやれる」と信じてきたのは、他ならぬ藤浪本人だ。

 キャリアの折り返しになるのか、それとも“終わり”はすぐそこに迫っているのか…。振れ幅の大きなシーズンになることは間違いない。(阪神担当・遠藤 礼)

 ○…今春初の対外試合登板は、11日の日本ハムとの練習試合(名護)だ。新庄監督の発案で販売価格500万円のバーチャル打撃マシンで、藤浪の映像を使い、162キロ設定で練習に取り組んでいることは知っている。ニュースには「別に何とも…」と反応していた右腕は「次戦のテーマ?前回と継続して力まないことですね」とバーチャルではなく、本物として真っ向勝負で仕上がりを確認する構え。5日の紅白戦で手応えを感じたカーブへの反応も楽しみにしている。

続きを表示

この記事のフォト

2022年2月10日のニュース