【野球】全員が攻守で心がつながった チームに対する忠誠心の勝利―新井貴浩の目

[ 2021年8月8日 05:30 ]

東京五輪第16日 野球決勝   日本2―0米国 ( 2021年8月7日    横浜 )

金メダルを胸に、笑顔で記念撮影する稲葉監督(中央)
Photo By 共同

 村上は見事だった。マルティネスのチェンジアップは左打者にとっては外角へ切れながら落ちる軌道になり、右打者より対応が難しい。しかも、追い込まれてから。軸が全くぶれずに打ち返した。打線の中に4番打者がもう1人いる感じ。8番に村上を置いている強みが出た。

 森下の力投、岩崎の好救援もあった。山田が好走、栗林は全試合を投げきった。勝因を探せば全員の名前が浮かぶ。米国の打者も内角球を逃げず、体を張ったプレーもあった。決着後は両国で称え合った。野球の醍醐味(だいごみ)を見る人に伝えてくれる好勝負だったと思う。

 今大会を通じて強く感じたのが、チームに対する忠誠心だ。打者陣は強引にならず、四球を選び、1点のために進んで犠打や進塁打に徹した。それぞれ所属チームでは中心選手。自己主張が出ても不思議でないのに一切ない。攻守で心がつながり、全員が日の丸のために…の思いだった。

 稲葉監督にとっては就任した4年前から東京五輪がゴールだった。時間をかけて多くの選手を見て、話をして準備。個でなく和の力を発揮できるメンバーで戦うためだ。単に今季前半戦の成績だけを基準に選んでいたら、これほどの一体感が生まれただろうか。

 侍ジャパンが常設され、定期的に編成してきた取り組みも結実した。やはり同じ釜の飯を食い、同じ時間を共有することで心が通じ合う。簡単な試合は一つもなかった。心を一つにし、必死に戦い抜いた姿に感動した。ありがとう、そして、お疲れさまと言いたい。

 初選出の若い選手たちは勝つために必要な空気感を体感した。次はWBCが控え、ロス五輪では再び野球が復活するかもしれない。今回の体験を次の世代へ継承してほしい。(スポニチ本紙評論家)

続きを表示

2021年8月8日のニュース