“記録より記憶” 大台まで残り1…楽天・渡辺直がひそかにこだわった数字

[ 2020年11月7日 11:52 ]

引退セレモニーであいさつする楽天・渡辺直
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 感動のラストステージだった。11月6日の楽天―西武戦(楽天生命パーク)は、渡辺直人内野手兼1軍打撃コーチ(40)の引退試合として開催された。

 「1番・DH」でスタメン出場。2安打を放って、ヘッドスライディングでの本塁生還も。9回には指名打者を解除して慣れ親しんだ遊撃の守備に就き、ショートバウンドのゴロをさばいて併殺も完成させた。40歳になっても堅実かつ泥臭いスタイルは色あせない。「直人イズム」が凝縮された数々のプレーで晩秋の杜の都を熱く盛り上げ、現役生活に幕を下ろした。

 「悔いはまったくないです。やりきったので」

 そう笑顔で言い切るいぶし銀の名バイプレーヤーの通算成績は、1135試合で3301打数855安打(・259)、16本塁打、115盗塁。数字には反映さえない部分でチームへの貢献度が大きく、それこそが自身の矜持でもあった。記録より記憶に残る男がひそかにこだわっていた数字があった。「あと“1”だもんね~。やぱり達成したいよね」。通算99個で、あと1個に迫っていたものとは―死球数だ。

 通算100死球は、実は隠れた「偉大な記録」である。通算死球のトップは清原和博の196個。長いプロ野球の歴史で100死球超えは過去に22人しかおらず、衣笠祥雄、阿部慎之助、稲葉篤紀、田淵幸一、野村克也、松中信彦、王貞治、高橋由伸(上位順)らそうそうたる名打者が名を連ねている。

 「当たりにいったことはないけど、常に打席では当たってでも塁に出てやるとは思っていた。当たったらめっちゃ痛いですよ。でもね、当てた投手の方が痛いから。それでチームのためになるなら、痛いのなんていくらでも我慢する。泥臭くやってきたスタイルが99死球という数字になっているなら、それは誇りに思いますね」

 もともと死球は褒められたプレーではない。ただ、時に試合の流れを大きく変えることもある。「投手の方が痛い」という表現は、いかにも渡辺直人らしい。昭和のど根性は、令和の時代にはそぐわないかもしれない。ただ、勝負の世界に身を置く者であれば、その精神はいつの時代でも必要ではないか。

 今季は1軍の打撃コーチを兼任し、いつも「若い選手が試合で結果を出すと本当に嬉しんですよ」と笑顔で話す。間違いなく指導者として今後のプロ野球界の大きな担い手の一人になるであろう彼には、「イズム」を継承する選手を育ててもらいたい。野球を心から愛し、誰からも愛され、泥臭くがむしゃらに常に全力でプレーする「直人2世」を。14年間、本当にお疲れさまでした。
(記者コラム 重光晋太郎)

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2020年11月7日のニュース