メークドラマ超えるシーズンを 野球には万人を勇気づける「力」がある

[ 2020年4月13日 17:43 ]

メークドラマ完結!1996年10月6日、セ・リーグを制し胴上げされる巨人・長嶋監督
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 プロ野球の開幕が大幅に遅れることは確実だ。5月末か6月か…。新型コロナウイルス感染が収束しない限り見通しは立たない。だが、野球には万人を勇気づける「力」があると信じている。日常を取り戻し、球音が聞こえたら、20年は「メークドラマ」を超えるシーズンを期待したい。

 番記者として96年の巨人を取材したが、ジェットコースターのような1年だった。同時に長嶋監督のプラス思考が最大11・5差を逆転した要因だったと今さらながら思う。

 4月末、開幕当初こそロケットスタートに成功も、救援陣が崩壊して15試合消化時点で6勝9敗と低迷。しかし指揮官は平然としていた。「ロケットはフロリダ沖の青い海に消えました。でもアメリカや(旧)ソ連だってロケット実験に失敗している」と切り出すと「失敗は確かに認めます。でも果報は寝て待てではダメ。管理能力が問われます。今後は第2、3のロケットを出しますよ。我々は10月から逆算しているんです」と力を込めた。

 心配する周囲の雑音には耳を貸さず、勝負は夏場とみていた。ロードが続く首位・広島に対し、巨人は涼しい東京ドームでの試合が多く組まれていた。ユーモアを交えマスコミに発信しつつ、落ち込む選手に暗示をかけた。7月9、10日の広島戦(札幌)で連勝。初戦は2回2死走者なしから9者連続安打の猛打が目立ったが、ガルベス、斎藤雅の先発ローテを入れ替えたことも勝因の1つだった。

 1週間後の同16日、3年連続20号本塁打に到達した若き主砲を引き合いに「松井が40本打つようなミラクルが起こる。“メークドラマ”が実現するでしょう」と宣言した。シナリオ通り100試合目で首位に立つと10月6日の中日戦(ナゴヤ)も制し、2年ぶり39度目のリーグ優勝を成し遂げた。

 同年暮れ、流行語大賞にも輝いたルーツを笑いながら説明した。「メークドラマって本当は何ていうか知ってる?“MAKE IT DORAMATIC”なんです。あえて分かりやすくしたの。ファンに親しみやすい言葉だったから」。広島の背中を見失いそうだった6月末、アイデアが浮かんだという。普通なら負け試合の采配を思い出すかもしれない。ところがミスを引きずっても何も生まれないと現役時代に悟った長嶋監督はチームを、そして世間を巻き込み、奇跡を起こした。

 未曽有の危機に直面している現在。1日でも早く「日常」が戻り、全国で「プレーボール」が響き渡ることを願う。そして、プロ野球の「力」を再び見せて欲しい。(記者コラム・伊藤 幸男)
 

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