太平洋諸国のラグビー弱体化に危機感 迫っている共栄共存策を考える時期

[ 2019年10月19日 13:45 ]

サモア代表の「シバタウ」を見守る日本代表(撮影・吉田 剛)
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 W杯期間中は書く量だけでなく、読む量も増えている。特に普段よりも圧倒的に多くなるのが、外電を読む量。日本の快進撃を称える記事もあれば、逆に揶揄(やゆ)する記事もある。賛否はともかく、一つ言えることが、私自身にとっては非常に勉強になり、考えさせられるということだ。

 1週間ほど前、ラグビー専門の大手サイト「RUGBYPASS」が掲載した記事が興味深く、考えさせられた。タイトルは「The Pacific Islands ’Lost XV’ Rugby World Cup edition」。意訳すれば「アイランダーから失われたベストフィフティーン W杯バージョン」といったところか。

 太平洋諸島が指すのはフィジー、サモア、トンガの3カ国をはじめとする島国のこと。つまり、元々それらの国の出身ながら、他国の代表になった選手でベストフィフティーンをつくってみよう、というわけだ。15人の顔ぶれを見ると、日本代表からもプロップ中島、ロックのヘル、No・8マフィ(いずれもトンガ出身)の3人が選ばれている。他の顔ぶれはオーストラリア代表のSHゲニア(パプアニューギニア出身)、イングランドのCTBツイランギ(サモア出身)ら。そうそうたる顔ぶれだ。

 記事の内容自体は15人の簡単なプロフィールや長所を並べただけだが、やや刺激のあるタイトルや、こうした視点から記事を書く意図を想像すれば、何を主張したいかを理解できる。その矛先の一つが日本であるのも、間違いないだろう。

 ラグビー界は国代表に、パスポート主義ではなく協会主義を取る。その歴史的背景はW杯を通じて広く知られるところになったが、かといってファンや関係者、メディアを含めて全ての人から賛意を集めているわけでなく、批判的に捉えている人たちも一定数以上いる。そしてそうした意見にも、耳を傾ける必要がある。

 8月のパシフィックネーションズ杯。花園で日本と対戦したトンガ代表は、協会が資金難で困り果てているところを、日本国内の飲食店やその他の企業から資金と物資両面の支援を受けたことが話題になった。サモアは2年前に協会の財政破綻が話題になった。そうでなくてもフィジーを含めた3カ国は、ニュージーランドやオーストラリア、もちろん日本を含めて他国への“選手供給源”になっている。サモアは有力選手のほとんどが欧州など国外でプレーしており、W杯でさえもベストメンバーを選出できないと指摘されている。そうした背景の全てが、本国の弱体化につながっているとの見方もある。

 選手には1人の人間として、それぞれの意思がある。そしてラグビーには、どの国で生まれようと、別の国の代表になれる可能性が広がっている。継続居住で代表資格を得られるルールがある以上、生まれた国か、プレーしている国か、どちらの代表を選択するかは選手個人の意思が尊重されるべきであり、権利でもある。一方でマクロの目で見れば、太平洋諸国の弱体化は、ラグビーそのものの衰退を早めるのではないかと、危機感を覚える。

 国際統括団体ワールドラグビー(WR)は、これまで36カ月だった代表資格取得のための連続居住期間を、20年12月31日から60カ月に延長することを決めている。現在の流れに一つのくさびを打つ効果はあるだろうが、抜本的な改善効果があるかどうかは疑わしい。それぞれの国代表が繁栄する前に、まずはラグビー界が繁栄しなければ先はない。WR、伝統国、そして日本も、共栄共存の策を考える時期が迫っていると感じている。(阿部 令)

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