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高橋 長光コーチと二人三脚で復活の「道」

[ 2010年2月20日 06:00 ]

<男子フィギュアフリー>演技を終えた高橋を抱きしめる長光コーチ

 【男子フィギュアスケート】二人三脚で歩んできたコーチも感激に浸った。高橋を指導する長光歌子コーチ(58)は、熱演を終えた愛弟子を優しく抱きしめた。日本男子史上初のメダルという最高の結果を生んだ背景には、10年前に偶然に引き寄せられてスタートした師弟関係があった。

 リンクサイドで魂の演技を目に焼き付けた。引き揚げてくる高橋を、長光コーチは優しく抱きしめた。「4回転を失敗しても立て直せたので褒めてやりたい。よくやったと思うし、うれしい」。日本男子初のメダルを獲得した愛弟子を称え、歓喜に浸った。

 高橋との出会いは、偶然が生んだ。10年前の00年、中学2年の高橋少年は、指導者が集まる宮城・仙台市の合宿に参加。荒川静香さんらを育てた長久保コーチに指導してもらうはずだったが、同コーチが他の選手を見ていたため、長光コーチが担当した。初めて与えたプログラムは、かつて伊藤みどりさんらも使用した「ワルソー・コンチェルト」。シニアの選手でも難しい曲を、少年は懸命に演じた。「最初は半信半疑だったけど、よくこれだけの曲の感じを出せるものだと思った」と長光コーチは振り返る。銅メダルをたぐり寄せた表現力は、早くから輝きを放っていた。

 高橋が岡山・倉敷で過ごした中学、高校時代は高橋が長光コーチのいる大阪に足を運んで週末だけ指導を受けていたが、関大に進学すると同時に同コーチの自宅に同居。髪形やファッションをめぐって何度もケンカした。高橋が「スケートを辞めたい」と言い出したこともある。08年10月の右ひざじん帯断裂後、リハビリから逃げだし連絡が取れなくなった時には「最悪のことも考えた」という。戻ってきたものの、なかなかリハビリを再開しようとしない高橋には「スケートを続けられないのであれば、皆さんに私が頭を下げて謝るから、辞めたければ辞めてもいいから」と声をかけて見守った。

 高橋が「男のだいご味」とこだわりを見せた4回転への挑戦も、背中を押し続けた。右ひざ故障から昨年10月に復帰後、すべての試合でトライさせた。五輪切符が懸かったGPファイナルでは、SPで首位発進しながらフリーで4回転に失敗して5位に転落。ライバル陣営から「無謀な挑戦」と批判されたが「スポーツなんだから、できる最高のものにトライするのは大事なこと」と意に介さなかった。

 金メダルとともに高橋が抱いている目標は、長光コーチを泣かせる演技をすること。この日、涙がなかった長光コーチは「泣けなかったんですよね、実は。(3月の)世界選手権では4回転決めてねって言っておきました」と笑った。「まだ先生に恩返しができていない」と高橋。二人三脚の物語は、まだまだ終わらない。

 ◆長光 歌子(ながみつ・うたこ)1951年(昭26)3月23日、兵庫県生まれの58歳。芦屋高―武庫川女大中退。選手時代は全日本ジュニア優勝。その後、コーチ兼振付師に転向。現在は関西大アイススケート部コーチ。

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2010年2月20日のニュース