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“鉄腕・上野”魂の連投318球で王手!

[ 2008年8月21日 06:00 ]

オーストラリア戦で12回を投げ抜いた上野

 【北京五輪・ソフトボール 日本4―3豪州】悲願の金メダルへ、日本の“鉄腕・上野”が魂の熱投で白星をもぎ取った。ページシステムによる決勝トーナメントが始まり、日本は米国との準決勝で延長9回の熱戦の末に1―4で敗れたものの、続くオーストラリア戦で延長12回にサヨナラ勝ち。21日の決勝進出を決めると同時に、銀メダル以上を確定させた。1人で318球を投げ抜いたエース上野由岐子(26=ルネサス高崎)は、米国との決勝も登板を直訴。12年ロンドン五輪からの除外が決まっているソフトボールの“最後の金メダル”を自らの手で獲りに行く覚悟を見せた。

 流れる汗をタオルでぬぐうのもつらかった。サヨナラ勝利の歓喜の輪にも重い足取りでしか加われなかった。準決勝・米国戦が開始された午前9時30分から、約11時間後の午後8時30分。3位決定戦と合わせた2試合で合計21回、318球を投げ抜いた上野は、それでも荒い息を整えながら言った。
 「最後はみんなに感謝します。祈るしかなかったんで…。でも、これで終わりじゃない。あしたの試合に向けコンディションづくりをしていきたい。投げるつもりでいます」。腕は鉛のように重く、疲労は極限の状態。いつ倒れても不思議ではないへとへとの体で、決勝戦での登板を直訴した。エースの意地、そして米国に雪辱したいという執念だけが、体を支えていた。
 「この場に立つために4年間やってきた」(上野)という決勝トーナメントは、死闘で幕を開けた。1次リーグ7試合で53得点の猛打を誇った米国戦は、タイブレーク方式による延長9回に4点を入れられ、3位決定戦出場が決まった。その直後に斎藤春香監督は「次も行くぞ」と上野に宣告。147球の熱投後、選手村で約2時間休息しただけで、再び球場に姿を見せた。
 そして、オーストラリア戦。足元がふらつき失策も犯した。自慢の速球も110キロを超えることはわずか。2―1で迎えた7回には2死から同点弾を許したものの、ピッチャーズサークルは譲らなかった。04年アテネ五輪では同じ3位決定戦で登板機会を与えてもらえず「信頼される投手ではなかった」と悔しがった。2試合目も171球を投げ抜いたのは、4年間を積み重ねたエースの意地だった。
 連投を決めた斎藤監督は「決勝トーナメントは一戦必勝。それを考えるとエースを送り込むしかないと。本当によく投げてくれた」と絶賛した。実は1次リーグ期間中、調整法をめぐって上野と意見が衝突することがあったという。しかし、この日は「上野と心中するつもりでした」と言い切った。信頼に足る投手。監督の言葉こそが、上野の求めてきたものだった。
 一息ついた上野は「2試合連続の延長?経験ないですねえ」と苦笑いした。それでも21日の決勝、米国戦には再び登板する覚悟でいる。「(五輪決勝は)初めての舞台だし、この緊張感を味わえるのは今しかない。この場に立てる喜びをしっかり表現したい」。五輪最後の、ソフトボールの金メダル。3連覇中の女王をその座から引きずり降ろし、夢を現実にかえることができるのは、この鉄腕だけだ。

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2008年8月21日のニュース