【内田雅也の追球】エースと4番に必要なごう慢さ エースらしく挑み、そして青柳は敗れた

[ 2022年9月7日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6-8ヤクルト ( 2022年9月6日    甲子園 )

<神・ヤ>6回無死、青柳はヤクルト・村上にソロ本塁打を浴びる (撮影・後藤 大輝)
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 試合終盤から降りだしたのは阪神ファンの涙雨だった。5時間を超える試合。7回裏、10回裏とよく追いついたが、もう9月である。結果だけが問われる時期なのだ。

 <粘り強さは必ず報われ――>とトマス・ボスウェルが『人生はワールド・シリーズ』(東京書籍)で書いている。<逆に手を抜けば容赦なく叩きつぶされるという世界なのだ>。10回表は拙守、11回表は四球がからんでの失点だった。

 9回裏、場内にため息が広がった。同点の無死一塁、大山悠輔は初球、遊ゴロ併殺打に倒れた。

 初球打ちの積極性は大山の持ち味だ。今季カウント別で打率・468、最多7本塁打を放っている=5日現在=。だが狙っていた球だったか。左腕・久保拓真の外角シュートを引っかけた。

 この夜は5月6日以来4カ月ぶりに4番に座った。4番ということで「俺が決めてやる」という力みが見てとれた。

 ただし、この、ある種のごう慢さも4番として持ちたい心である。4番の性(さが)である。

 同様にエースの性もある。投手の資格として「俺が投げないことには、試合は始まらない」といった主導権を握る自己顕示欲がいると、野村克也が『野球論集成』(徳間書店)に書いている。さらに「打てるものなら打ってみろ」という自信と挑戦的な心がいる。

 エース・青柳晃洋はこうした投手に必要な強い精神力を備えた投手である。この夜も向かっていった。そして、今季最多となる5点を失った。

 3―1の5回表1死二、三塁、山崎晃大朗を迎えた時、二遊間は深く引いて守っていた。内野ゴロでの「1点はOK」という守備隊形である。

 青柳はしかし「1点もやりたくない」と心がうずいたのだろう。低めでゴロを打たせる本来の姿はなく、高めで空振りか凡飛を狙う投球が見えた。最後は内角速球を右越えに2点三塁打された。

 その前の4回表1死一、三塁で村上宗隆を迎えた際も同じだ。ベンチも捕手の構えも「四球OK」だった。3ボール0ストライクとなって余計「四球OK」は強まった。だが青柳は四球は嫌だった。外角低めシンカーを右前にはじき返され1点を失った。村上には6回表も真っ向挑み52号ソロを浴びた。エースらしく挑み、そして敗れたのである。 =敬称略=
 (編集委員)

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