Better People Make Better Tigers 矢野阪神とオールブラックスの類似点

[ 2022年3月25日 12:50 ]

阪神・矢野監督
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 矢野阪神の「チームビルディング」が興味深い。春季キャンプ中、選手は日替わりで1日キャプテンを務め、座右の銘や意気込みを、仲間や首脳陣に向けて練習前に発表した。

 甲子園球場での秋季キャンプ最終日に行われた全員参加の大掃除も、捕手の坂本が導入した本塁打を打った選手の首にかける「虎メダル」も、「チームビルディング」の一環だ。

 22年シーズン開幕前日の24日もこんなことがあった。京セラドーム大阪での練習前に、野手が整列。無人のスタンドに手を振り、頭を下げた。試合後にするファンへのお礼の予行演習だった。シーズンへ気持ちを高め、団結する狙いがあったと推測する。

 チームの一体感を高める活動を、ラグビー界では「チームビルディング」として大切にする。19年W杯で8強入りした日本代表は、「グローバル」と「ローカル」をミックスさせた「グローカル」という造語のもと、チーム内での意見交換、食事会、レクリエーションを頻繁に開催。7カ国にルーツを持つ多国籍軍団は一つにまとまり、快進撃を繰り広げた。

 世界最強のオールブラックス(ニュージーランド代表の愛称)は、チームビルディングを重視した先駆け的存在かもしれない。90年代後半から00年代後半まで、個人の力量がありながら、W杯で優勝争いに絡めなかった。お酒を含め、規律が乱れることがたびたびあった。07年大会が8強にとどまったことがきっかけになり、強化方針が一新された。

 キーワードは「Better People Make Better All Blacks」。いい人間がいいオールブラックスをつくる―。この信念のもと、品格を備え、練習や試合への準備、努力を怠らず、リーダーシップを取れる選手を育てようと、人間教育を重視した。企業で言うところの「グループワーク」のような、様々なチームビルディングが導入された。世界一屈強な男たちは、ロッカールームを必ず掃除するようになった。組織をより良い方向に導ける「チームマン」を養成し続けた結果、11、15年のW杯連覇につながった。

 さて、矢野阪神。ラグビー界で不可欠なチームビルディング的な活動に対して、「プロとしてどうか」、「そんな暇があれば練習をした方がいい」という声もたまに聞く。だが、矢野監督や、その考えを汲み取った選手による強い組織をつくろうとする取り組みが、見当違いとは思えない。指揮官が常々口にする全力疾走は浸透し、今季から番記者になった当方からすれば、“矢野チルドレン”は結束力を高めようと積極的に行動し、チームに活気があるように見える。

 矢野監督は、22日に恒例の必勝祈願をしたあと、こんな発言をしている。

 「本当にいいチームになっているという手応えを、いろんなところで感じる。でも、まだいいチームで止まっている。強いチームになれていない。いいチームだからこそ、強いタイガースになる。(それを証明するためには)やっぱり、勝つ、優勝というのを見せる必要がある」

 Better People Make Better Tigers。

 実現すれば、今季限りで退任する矢野監督は最高の形で花道を飾ることになる。(阪神担当・倉世古 洋平)

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2022年3月25日のニュース