【スピードスケート】スケート嫌いの五輪メダル候補…恩師、父、母が明かす吉田雪乃の素顔
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スピードスケート女子500メートルで初出場となる吉田雪乃(23=寿広)が、メダルを視野に入れている。スケート嫌いを公言するが、根っからの負けず嫌い。類いまれなセンスを持った逸材が本気になっていく過程とは――。父・昭男さん(61)、母・真由美さん(58)と盛岡工高時代の恩師・植津悦典監督(45)が当時を振り返った。(取材・構成 大和 弘明)
「オリンピックを目指したい」――。突拍子もない娘の告白に、両親の心は揺れた。「え、今、オリンピックって言った?」。真由美さんが驚くと、昭男さんも同じ思いだった。「ちょっとちょっと…何言ってんの。吹きすぎだよ!」。20年11月。高3の吉田は、地元・盛岡に残って競技を続けることを決めた。
両親が、そう思うのも無理はなかった。大雪の日に生まれたことが由来の雪乃は3歳上の活発な兄とは対照的に「ボーっとしていた」と昭男さんは振り返る。スキーや自転車など上達は早く、何をやらせても筋は良かった。ただ「スケートが嫌い」と言い続けてきた娘の人生の延長線上に五輪があるとは夢にも思わなかった。
負けず嫌いな性格が見え隠れするシーンはあった。小学校入学前、初めて極真空手の大会に出場し、違う道場の選手と対戦した。「顔にマスクをしているんですけど、もうボコボコにされて…。ずいぶんパンチをもらっているなと思って見ていたら、マスクの中で泣きながらパンチを返していた」と昭男さん。真由美さんは「今思えば何ごとも逃げないでやっていた。根性があったのかな」と明かす。
スケートとの出合いは偶然。小学生の頃、兄の練習についていくと指導者に誘われた。半ば遊びの延長で始めると、センスはあった。指導者が持つひもにつかまりながら、最初の練習でリンク1周を滑りきった。通うたびに上達したが、そもそも自分の意思で始めた競技ではない。真由美さんは「本人がやりたいとかではなく、周りがよく面倒を見てくれた。スケートが好きじゃないというのは、そこから生まれたのかな」と苦笑いで振り返った。
「5年後、メダルのチャンスがある。高3の11月にそういう話をした記憶があります」。そう語るのは、盛岡工高時代の監督で今も時折アドバイスを送る植津さんだ。高2でユース五輪500メートル銅メダルを獲得しながら競技引退も考えていた吉田を説得。今に至る。
粗削りだが、才能は抜けていた。中学時代、陸上部に所属しながら500メートル全国7位。仲の良い先輩を追うように高校からスケートを本格的に始めた。「足首、膝、股関節。全てしっかり曲がっていた。天性のもの」と植津さん。関節が柔らかく、自然と低い姿勢をつくれる滑りには無限の可能性があった。
もちろんスケートが好きになることはない。だが、目の前にある練習を妥協することはなかった。高校1年では、小学生が身につけるような基本の姿勢づくりや筋力強化を一からこなした。「五輪」「優勝」など現実味のない目標はあえて立てない。毎日、練習メニューの意図を説明された後は、全てが真剣勝負。植津さんは「短期的な目的、目標があると強い。やると決めたらやる子。弱音は一度も吐かなかった」と話した。
午前6時の朝練習のため5時半に自宅を出て、午後8時終了の練習が終わると帰宅。「お風呂に入って、夕食を食べて、すぐ寝る。かわいそうな時はあったけど、つらいとは一切言わなかった」と昭男さん。そんな日々が礎となった。
21年に地元企業の寿広に就職。昨季から一気に頭角を現し、夢舞台にたどり着いた。「あれはうちの娘?自分の娘と結びつきません」。母の言葉には、多くの人に導かれた不思議な道のりがにじむ。植津さんも「恩返ししたいと言われますが、僕はもう報われてます」と言う。スケートは嫌い。でも、目の前のことに一生懸命。異色スケーターの号砲が、刻一刻と近づいている。
《自転車でも「女子で最高の素材」》吉田の非凡な能力値を示すデータがある。昨年4月から数週間に1度、インドアバイク「ワットバイク」の練習サポートを行う大木満さん(65)によると、自転車をこぎ始める最大瞬間出力は1200ワットを超えるという。日本競輪養成所の入学試験の項目にもなっており、女子のトップ合格者の数値を優に超える。「東京五輪の自転車短距離に出ていた女子代表よりも高い数値」と大木さん。最高出力を維持する持久力も高く、大木さんは「女子選手で最高の素材です」と太鼓判を押した。
《ミラノ入り》吉田は31日、ミラノ入りした。到着した空港で五輪の装飾を見て「これから始まるんだなという気持ちが湧いてきた」と口にした。日本選手団の旗手を務める男子の森重は500メートルで22年北京五輪銅メダルに続く活躍が期待され「プレッシャーがあると思うが、自分らしく先頭を歩きたい」と決意を語った。
◇吉田 雪乃(よしだ・ゆきの)2003年(平15)1月29日生まれ、盛岡市出身の23歳。24年11月のW杯長野大会500メートルで初優勝。同種目で25年世界距離別選手権6位、W杯は今季の第4戦を含む通算3度優勝。昨年12月の全日本選手権は平昌五輪金の小平奈緒の大会記録を更新する37秒36で制し、五輪切符を獲得。自己ベストは36秒88。趣味は犬観賞、スイーツ巡り。1メートル64。
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