「信頼」がラグビー日本代表の成否を握る

[ 2023年9月8日 08:00 ]

選手に指示を出す日本代表のジョセフ・ヘッドコーチ
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 バスケットボールの男子日本代表が、W杯で史上初めて3勝を挙げ、48年ぶりに自力で来年のパリ五輪出場権を獲得した。1次リーグのフィンランド戦、、順位決定戦のベネズエラ戦の勝利は、いずれも最終第4Qで2桁得点のビハインドをはね返してのもの。それを可能にしたのが、ありきたりながら選手の最後まで諦めない姿勢と、いわゆる「トムさんのバスケ」だった。

 大会中も日本の選手が異口同音に発した「トムさんのバスケ」。私も8月、東京都内の合宿を取材した際、実際に主将の富樫が「トムさんのバスケ」と口にするのを耳にした。それはつまり、サイズで劣る日本が世界で戦うための術であり、小さな選手がスピードで相手の守備をかき乱した上で、外から3点シュートを積極的に狙っていく戦術と理解している。

 女子日本代表はトムさんのバスケで、東京五輪では銀メダルを獲得した。その後に男子代表の指揮官に転じたトム・ホーバス監督だが、同じ日本人とは言え、男子と女子では競技自体の特性や傾向、世界における日本の立ち位置も違う。同じ戦術が通用するかと言えば、そうとは言い切れない部分もあるだろう。それでも戦い方の軸をぶらさず、W杯で結果を残せたのは、指揮官が選手の遂行力を信じ、選手は指揮官の戦術を信じる、相互の信頼が築けていたからに他ならない。

 ラグビーW杯が9月8日に開幕する。優勝を目標に掲げる日本代表だが、今年は7、8月に計6試合を行い、1勝5敗。近年は10位が定位置だった世界ランキングも14位まで降下し、1次リーグD組では下から2番目という立ち位置で本番を迎えることになった。当面は2大会連続の決勝トーナメント進出がターゲットになるが、予断は許さないといったところか。

 不安材料を挙げればきりがない。W杯までの4年間の試合数は15年大会が53試合、19年大会は33試合あったのに対し、この4年間はコロナの影響で20年は一切活動ができなかったこともあり、わずか22試合。スーパーラグビーに参戦していたサンウルブズも消滅し、国際舞台を経験する機会はめっきり減った。ベテランの復調や若手の台頭はあるものの、チームとしての熟成が進みきらなかったのが、今年に入って結果を残せていない要因となっている。

 ただ、4年前も8年前も、いい意味で予想を裏切り、W杯で結果を残したのが日本代表でもある。もし三たび、この4年間で山積した不安など嘘のような快進撃があるとすれば、鍵となるのはバスケ男子と同じように、指揮官と選手、相互の信頼にあると考える。

 「そこはスタッフが考えていると思うので」

 今年初実戦となった7月8日のオールブラックス・フィフティーン戦後、今大会が4度目のW杯となる堀江翔太が発した言葉にヒントがある。代表活動では練習内容、強度、時間などを含め、あらゆる計画を立てるのはジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチを筆頭とするコーチングスタッフ。6月から高強度の鍛錬を重ね、直前になっても練習強度を落とさず、コンディション調整もなく迎えたこの試合は、6―38と完敗だった。もちろん個人のハンドリングエラーで得点機を潰したことも敗因の一つだが、およそ万全とは言えないコンディションで試合に臨んだのは、選手の責任ではない。

 スタッフはあくまでW杯で結果を残すため、全てを逆算し、強化プランを立案する。固定されなかった試合メンバー、単調なアタックプランを振り返れば、それは明らかだった。それでも1勝5敗は負けすぎで、レッドカードやケガ人が出たのは誤算があった面も否めないが、心技体のピークを本番に合わせる最良のプランを立案する能力がスタッフにあることは、4年前に証明されている。

 だからこそ今、試されている。負けが込めば当然、相互の信頼、特に選手のスタッフに対する信頼は揺らぐ。自分たちに自信も持てない。8月26日のイタリア戦前、リーチが「W杯に行く前に自信を付けたい」と話したのはそのためだったが、結果はダブルスコアの敗戦だった。堀江と並び4度目のW杯となるリーチ自身はともかく、まだ日本代表としての経験が浅い選手にとっては、迷いが生じる敗戦になったことは想像に難くない。

 うわべの態度や口先だけではなく、芯から信頼を寄せ合えるか。信頼を寄せ合った状態で、時間を重ねられているか。その答えは試合のパフォーマンスや結果となって、まもなく出る。

 賽は投げられた。(記者コラム・阿部 令)

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