「1日1万歩」は歩きすぎ?“4400歩で充分”という説を深掘ってみる
健康のために、毎日1万歩を歩くことを目標にしている人は多いかもしれません。1日1万歩というキリのいい目標を達成することで、体脂肪を落とす、ダイエット、高血圧対策、あるいは心臓病の罹病リスクを減らすなどの効果があると信じられてきました。
しかし、実際に取り組んでみればわかりますが、1万歩のウォーキングは容易ではありません。ずいぶん長い時間がかかりますし、歩く距離もかなりのものです。
せっかく歩数計を身につけて歩き始めても、1万歩というハードルの高さについ音を上げてしまった人もいるかもしれません。「自分には無理だ」と、始める前から諦めてしまう人もいるでしょう。
そんな中、「それほどたくさん歩かなくても健康効果がある」と提言する学術論文が最近発表されました。
その論文(※)は米国の内科医学ジャーナルで発表されており、ハーバード大学のアイ=ミン・リー博士や東京大学の鎌田真光博士らが論文著者に名を連ねています。
7500歩を超えると平均寿命を伸ばす効果はほぼ変わらなくなる
この研究では、およそ1万8000人という膨大な数の女性被験者に歩数計を着用してもらい、7日間の歩数を集計した後、最長で4年間の追跡調査を行ったものです。
その結果、1日あたりの平均歩数が2700歩以下のグループが、もっとも死亡率が高くなることがわかりました。
1日あたりの平均歩数が4400歩まで増えると、死亡率は41%低くなり、平均歩数が増えるにつれて平均寿命も比例するように伸びます。しかし7500歩を超えると、それ以上はほとんど変化しなくなるということです。
また、歩くスピードが寿命に影響しないこともわかっています。
早歩きをしなくても健康効果にはつながる
たくさん歩くことは健康にいい。このこと自体に間違いはないでしょう。しかし論文によれば、1日1万歩まで歩かなくても、また特に早歩きをしなくても大丈夫とのこと。
もちろん、1万歩以上歩いたら悪影響があるというわけではありません。しかしその効果は、7500歩程度とあまり変わらないという結論が出ています。
1日1万歩の目標がストレスになる可能性もある
歩くことに限らず、体を日常的に動かすことで血圧や血糖値などの数値を改善し、心臓病など生活習慣病の罹病リスクも軽減できることは、もはや疑いのない周知の事実でしょう。
とはいえ、何があっても1日1万歩を歩くと目標を立て、その数字がプレッシャーになってしまうと精神衛生上よくありません。身体の健康にも、かえって害を与える可能性があります。
「雨の日も風の日も絶対に歩く」などと自分を追い込んでしまうと、歩いたものの、風邪を引いてしまった……なんてことがあるかもしれません。
もう少し気楽に、たとえば朝夕の通勤時や昼休みに少し遠回りをして歩いてみる。それくらいから始めた方が長続きしそうですし、それでも充分に健康効果はあるようです。
あのブルース・リーが、約半世紀も前に残した名言を改めてご紹介しましょう。
「なるべく歩くようにしなさい。たとえば、目的地から数ブロック離れた場所に駐車するように。エレベーターを使わずに、階段を上りなさい」 ―『Tao of Jeet Kun Do/日本語訳名:秘伝截拳道への道』より
あまり気追い過ぎず、できる運動から取り組んでみてください。
(※)参考文献
Association of Step Volume and Intensity With All-Cause Mortality in Older Women.
Lee M. et. al. 2019
[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
【公式Facebook】
<Text:角谷剛>
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