コロナ元年の“シンデレラガール”陸上・志村美希さんとSNS

[ 2021年4月12日 11:42 ]

陸上の志村美希さん(266番)は昨年、飛躍的な成長を遂げた(本人提供)
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 志村美希さんの存在を知ったのは、昨年の陸上・日本選手権、女子800メートル決勝だった。田中希実がどんなレースをするのか、固唾(かたず)をのんでスタートを待っていたら、選手紹介でとびきりの笑顔をつくりながら両手を突き上げる、やたら元気いっぱいの選手が場内スクリーンに映し出されているではないか。

 なんなんだ、存在感ありまくりのこの選手は。と、思った人は世間にも多かったようで、日本選手権の後から、志村さんのツイッターのフォロワーが急増。自然体の投稿もファンに刺さった。現在は、昨年比8倍増の2万4000人を抱えるちょっとした有名人だ。

 日体大の最終学年だった昨年は、シンデレラガールと呼ぶにふさわしい活躍。ブレークの要因の一つが「SNSの力が大きくて」と語るところに時代を感じる。緊急事態宣言で競技の見通しが立たなかった昨春。ガラスの靴をなくしたかのように、心ここにあらずの日々を送っていた志村さんにとって、有名人が投稿したトレーニング動画が、心のビタミン剤になった。

 「SNSでポジティブな気持ちになれるんだって思いました。私もこういう選手になりたい。さぼっている場合じゃないなって、思いました」

 大学施設は使えない。自宅近くの坂でダッシュを繰り返した。走れば、息づかいが荒くなる。周囲に遠慮して、人気がない朝5時半から汗を流した。

 地道な取り組みが、制限緩和後に生きた。9月の日本学生対校選手権で初めて決勝に進み、5位入賞。知名度が上がり、フォロワーがジワジワ伸びた。

 「私のことを初めて知ったという人の応援メッセージが、力になりました」

 初出場、10月の日本選手権の予選で一世一代の好レース。ラスト100メートル、大混戦の2位争いから抜け出した。自己記録の2分7秒71。本人も驚きのファイナリストになり、この原稿の冒頭に書いた、見る人が笑顔になるような元気いっぱいの選手紹介が飛び出た。

 「日本選手権は雲の上の夢の舞台で。決勝に行けると思っていなかったので、選手紹介で心からの笑顔が出ました」

 決勝は9位。ボロボロに散ったが、悔いなくやり切った。この1年を振り返っても、達成感が大きかった。

 「日本選手権出場と全カレ(全国大学対抗選手権)入賞という夢を叶えられました。中学1年から陸上を初めて10年。10年かかって、努力は絶対報われる、叶えられるということを経験できました」

 コロナ禍元年の20年は、スポーツ選手がSNSをかつてないほど活用した1年だったのではないだろうか。経済が止まり、スポーツの存在意義が見いだしにくい中で、スポーツの価値を維持しようと、みなが必死だった。発信が、次世代の選手の光になった。志村選手もエネルギーをもらった1人だ。

 10代の選手にも、SNSを活用する場が新たにできた。大会が消滅した高校生を支援する「#スポーツを止めるな」が代表例。部員、関係者が投稿したプレー動画を、有名選手やファンがSNSで拡散することで、大学関係者の目に届け、進学のチャンスを広げるという運動だ。

 ハンドボールの発起人、大阪・関大北陽高の吉田耕平監督は「#止めるな」が持つ、進学以外の意義をこう口にした。「この子たちが世間に出たとき、発信する力が必要になります」。SNSの問題点を認識した上で、社会人になったときにプラスになると、部員に投稿をうながしている。

 SNSを通じて自己プロデュース能力を養った志村さんは、社会人でもきっと活躍するだろう。4月から、ヨガのインストラクターとして働く。「応援してくれた方への恩返し」の意味で続けるSNSを仕事にも活用して、お客さんの心も“ほっこり”させるはずだ。過去に不快な思いをし、意図とは違う解釈をされたこともある。けれど、圧倒的に多かった世間の善なる声に勇気付けられてきた。

 「中学生から親世代、小学生からも温かい応援をいただきました。背中を押してもらったおかげで夢を叶えられました。SNSは人を動かす力を持つ、と学んだラストイヤーでした。もちろん、いいことばかりではないけど、上手に使えば、SNSは大きな力を持っていると思います」

 トラブルもあるし、傷つくこともある。みんながみんなにプラスになるとは限らない。ただ、SNSを自分磨きの場ととらえるスポーツ選手は少なくない。(倉世古 洋平)

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