追悼連載~「コービー激動の41年」その81 「通常営業」にこだわった最後のシーズン
2015年11月29日。「親愛なるバスケットボール」という手紙形式でそのシーズン限りの引退を表明したコービー・ブライアントは翌16年の2月3日、地元ロサンゼルスで行われたティンバーウルブス戦で3点シュートを11本中7本成功。38得点を稼いでチームを119―115での勝利に導いた。チーム史上ワーストとなっていた連敗は10でストップ(この時点で10勝41敗)、残り5分2秒からチームが記録した18点中14点までがブライアントによるもので、レイカーズの本拠地「ステイプルズ・センター」に詰めかけていた1万8997人のファンは、ブライアントの体の中に残っていた底力に歓喜していた。
33分出場したこの試合では5リバウンドと5アシストもマーク。37歳以上で1試合「35得点+5リバウンド+5アシスト」をクリアしたのは史上4人目で、これで引退への置き土産ができたような感じだった。
ブライアントは引退表明のあと、敵地での試合ではすべて相手チームの配慮によるコート上のセレモニーを拒否している。その地を訪れるのは最後になった試合でも“通常営業”を希望。その意思はファン投票で最多得票(189万1614票)を集め、3年ぶりに出場することになったオールスターゲーム(2016年=カナダ・トロント)でも同じだった。
ブライアント以外の西軍の先発はステフィン・カリー(ウォリアーズ)、ラッセル・ウエストブルック(当時サンダー=現ロケッツ)、ケビン・デュラント(当時サンダー=現ネッツ)、カワイ・レナード(当時スパーズ=現クリッパーズ)の4人だったが、いずれもブライアントにより多くボールを集めてより多くの得点を取ってもらい、通算5回目の球宴MVPになってもらうことを望んでいた。
しかしブライアントはこのオファーも拒否。結局、通算18回目の球宴(出場は15回目)では26分の出場で10得点と8アシストという平凡な成績に終わり、31得点を挙げて196―173での西軍勝利に貢献したウエストブルックがMVPとなった。そしてこの球宴が事実上、ブライアントにとって“最後の大舞台”だと誰もが思っていた。
マイケル・ジョーダンの現役最後の試合はウィザーズに所属していた2003年4月16日の76ers戦。すでに40歳となっていた。レギュラーシーズン自身最後の1072試合目でジョーダンは28分10秒間、コートに立って15得点。得点王に10回輝き、生涯平均で30・1得点をたたき出していた“バスケの神”としてはいたって平凡なスコアだった。最後のプレーとなったのは83―103と敗色濃厚だった第4クオーターの残り1分45秒に決めた2本のフリースロー。宙を舞うことはなく、チームを勝利に導くクラッチショットでもなかった。
歴代2位となるブライアントの81得点(2006年1月22日=対ラプターズ戦)を上回り、今もなおNBA最多得点記録となっている1試合100得点(1962年3月2日=対二ックス戦)を達成したウィルト・チェンバレン(当時ウォリアーズ)のレギュラーシーズンでのラストゲーム(通算1045試合目)は、レイカーズに所属していた1973年3月28日のウォリアーズ戦。216センチの大型センターとして時代を駆け抜けたチェンバレンは48分フル出場して18リバウンドを稼いだものの、得点欄に記された数字は「1」だった。膝を痛めていた36歳にもう余力はなかった。
この2人に限らず、衰えたと自分で判断したからこそ選手は引退するのである。ブライアントも例外ではない。ただジョーダンやチェンバレンと違っていたのは最後の幕の引き方だった。
「コートには何も残さなかった」。ブライアント本人はそう語った。今年2月24日の葬儀ではジョーダンもブライアントの最後の雄姿をそう表現した。2016年4月13日。現役最後となるレギュラーシーズン通算1346試合目でジャズと対戦したブライアントは、エネルギーがゼロになるまで渾身の力を振り絞った。それはまさに圧巻だった。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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