米国にならい今こそ“個”を磨け! 宇津木妙子元代表監督がコロナで“分断”のソフトボール代表へ提言
五輪延期の光と影
21年開催となった東京五輪でも先陣を切って競技が始まるとみられ、金メダル獲得の期待も高いソフトボール。1年延期が上野由岐子(37=ビックカメラ高崎)らベテラン勢に与える影響を憂慮する声も上がっているが、元日本代表監督の宇津木妙子氏(67=日本ソフトボール協会副会長)が危惧しているのは別の要素。いわば、日本が抱える構造的な問題だった。
私が代表監督を務めていた2004年アテネ五輪の前年、世界はSARS(重症急性呼吸器症候群)の脅威にさらされていました。海外遠征は軒並み中止となり、国内合宿のみ。ところが今回は、国内合宿ですらできない状況に追い込まれています。世界中が同じ条件とは思いますが、特に日本に関して心配しているポイントが2つあります。
最も危惧しているのはチーム競技、特に野球やソフトボールといったダイヤモンドスポーツに根付いてきた「集団」意識です。日本は子供の頃から、練習は与えられたメニューをこなすことが主ではないでしょうか?言い換えれば「個」は二の次。ところが、今回のウイルス禍は、その「集団」を分断してしまいました。
海外、特に最大のライバルとなる米国は「個」を強化し、チームを成立させている側面があります。自分をアピールして使ってもらうために、ジュニア時代から自分で練習を考える習慣が根付いています。では、日本は?私の聞いたところでは、チーム練習が難しくなると「個別練習のメニューをください」という選手も多いそうです。
これは、1年というスパンで考えると大きな差を生むのではないか、と考えています。自ら積極的にレベルアップを図ることができる選手と、できない選手。裏を返せば日本に根付いてきた、練習に対する意識を変えるチャンスともいえるでしょう。個の力アップこそが、チームの力アップ。時に旧態依然とされる構造的問題を、払拭(ふっしょく)すべきタイミングにもなると思います。
もう一つも分断された集団に関係します。投手力とともに日本にとって最大の武器といえる、正確で緻密な守備。私の考えでは、打撃や投球のレベルアップは個人練習でも図れますが、守備は対人、つまりノックを受けた本数に比例して磨かれていくものだと思います。チーム練習が不足し続けると、自慢の守備力に問題が起こるのではないか、と思うのです。
一方で、来年度39歳となる上野由岐子や、38歳になる山田恵里らの“劣化”を心配する声もあります。これについては、私は明確に否定しておきます。現在の候補選手で、五輪経験があるのは2人だけ。大舞台への準備がいかに大変か、肌感覚で分かっているのも2人だけです。間違いなく、2人は仕上げてきます。今年に入って上野の個人練習を見る機会がありましたが、過去にやったことがないことまでプラスしていました。個人としての練習での積み上げという点でも、こと2人に関しては問題ないと考えています。
五輪の延期が決まる前の3月、日本ソフトボール協会は代表15選手を発表する予定でしたが、延期しました。今となっては、これが幸いだったように思います。もし代表を発表していれば、来年をどういう状態で迎えたとしても、選手を交代するのは心情的に難しかったでしょうから。
現在、開幕を見送った日本リーグは9月からの実施を計画しています。宇津木麗華監督がどう考えているかは分かりませんが、まだ選考途中と考えれば、若手がやる気になって急激に伸びる可能性もあるし、ベテランの仕上がりを確認する時間もできます。今はまず、個人のスキルアップと体力増強に努め、いずれ解禁されるチーム練習への準備を進めてほしいと願っています。
◆宇津木 妙子(うつぎ・たえこ)1953年(昭28)4月6日生まれ、埼玉県出身の67歳。NPO法人ソフトボール・ドリーム理事長、東京国際大特命教授。星野女高(現星野高)―ユニチカ垂井では主に捕手、三塁手。86年に日立高崎(現ビックカメラ高崎)監督就任。日本女子代表監督として00年シドニー五輪で銀、04年アテネ五輪で銅メダル。05年には国際ソフトボール連盟(当時)の殿堂入り。現在は世界野球ソフトボール連盟理事、日本ソフトボール協会副会長も務める。
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