ラガーマンはなぜエエやつか…車いす中川将弥と近鉄・野中翔平から考える

[ 2020年4月16日 11:59 ]

京産大ラグビー部元主将の中川将弥さん(右)と大学時代のライバル、元同大で近鉄フランカーの野中翔平
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 19年は、「ラガーマンってエエやつ」だと世に広まった1年だと思っている。対戦相手、審判、仲間を尊重する姿勢が日本人の心の琴線に触れた。カナダ代表の釜石での清掃活動など、グラウンド外の美談もあった。とはいえ、品行方正ばかりでなく、それなりに問題も起きているから「いい人間」ではなく、関西弁の「エエやつ」ぐらいが座りがいい。

 京産大元主将の中川将弥(24)と、同大元主将で近鉄のフランカー野中翔平(24)も、例に漏れず「エエやつ」である。
 中川は大学4年だった17年のリーグ戦で試合中にタックルを受けて大けがをし、一時は首から下がマヒをした。絶望感に押しつぶされそうな病室を、大勢のラガーマンが連日、訪問してくれたことが心の支えになった。

 野中は、その中でも最も多く見舞いに来てくれた人物。中学からの知り合いだが、同じチームで1度もプレーをしたことがない。それにもかかわらず、突き動かされたのは、「将弥だから、という人はたくさんいる。人に何かをさせたいと思わせるキャラだから」。

 中川はリハビリを見られることが嫌だった。猛練習で知られる京産大で、下級生からフッカーのポジションを奪ったプライドがある。「情けないところを見られたくない。だから、人がいると逆に燃えた」。中川の性格を見抜き、嫌われることを承知で野中は時間を見つけて押しかけた。

 懸命のリハビリで医者が驚く回復をした中川は今、基本的に車いす生活を送る。自動車を運転し、杖代わりの歩行補助器具を両手に持って歩くこともできる。1月に結花さん(24)と結婚。4月に精密機器大手の島津製作所に入社した。15日には男児が誕生した。

 めまぐるしい変化の春。3月末に2人は、日本代表7キャップ、金正奎(28=NTTコミュニケーションズ)の実家が営む焼き肉店「名月館」で顔を合わせた。「体が大きいですね。ラグビーをされてますよね?」。店長からのちょっとしたサービスは、仲間のために体を張るスポーツをする者へのリスペクトだと解釈した。

 それにしても、災害などで、高、大、社のラガーマンがボランティアをしたという話を耳にする機会が多いように感じる。なぜか。思い当たる節を、野中が口にした。

 「ラグビーをすることで人間形成がされると高校時代(東海大仰星)は思っていたんですけど、ラグビーを選んだ時点で、他人を思いやることができる人間なんだと、湯浅先生(東海大仰星監督)は言うんですね。ラグビーをすることで人のつながりが強くなるのではなく、仲間を思うことに美学を感じる人間がラグビーを選んでいるのではないか、と」

 日本協会は11年以降の重傷障害件数を公表している。12年、13年の年間25件が最も多く、年15~20件で推移している。この問題は減った増えたで一喜一憂しても意味はなく、0でなければならないと、楕円球にかかわる人間は共通認識を持っている。

 「安全で楽しく」というスポーツの根幹を実現するために、技術向上の取り組みは年々進んでいるものの、中川は不運にも事故に遭ってしまった。障害を抱えてしまった。それでも「ケガをしても僕の人生。大変ですけど、しゃあないととらえています」と笑う。同じ境遇になって同じ言葉を口にする難しさを、誰もが知っている。野中は「みんな将弥を甘やかすから、アカンって言うやつがおらなだめでしょ」と優しく笑う。友人であっても本音をぶつけるのは難しいと、誰もが知っている。痛みも複雑な感情も飲み込んで前を向く。こんな人間が多いから、ラガーマンに惹かれるのだ。(倉世古 洋平)

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