逸ノ城、大関獲りムードも最大の敵は“甘い”誘惑

[ 2015年1月2日 15:42 ]

2015年も躍進が期待される逸ノ城

 1年前の今ごろはまだ入門すらしていなかった。それが今や「逸ノ城」の名前は相撲ファンのみならず、知名度はまさに全国レベル。遠藤とともに一躍、トップレベルの人気力士に躍り出た。

 平成25年初場所、幕下15枚目格付け出しで初土俵を踏み、所要4場所で入幕すると41年ぶりの新入幕金星、あわや100年ぶりの新入幕優勝かという大活躍で13勝をマークした。幕内2場所目の先場所は一気に新関脇に躍進するも、秋場所後は帯状疱疹で10日間の入院を余儀なくされ、場所前は関取衆との稽古がいっさい出来ず、部屋の若い衆と肌を合わす程度だった。

 初の横綱、大関総当たりの場所、稽古不足の上に対戦相手のマークが一層、厳しくなる中、“怪物”は8勝7敗と結果を出した。やはり、只者ではない。プロ入りして1年足らずの新鋭の周りからは早くも“大関候補”の声すら囁かれている。

 「衝撃の1年だった。1年で幕内に上がればいいと思っていたんで」

 師匠の湊親方(元幕内湊富士)の予想すら、はるかに上回る成長ぶり。初場所の番付発表当日、会見に臨んだ逸ノ城は関脇2場所目の目標を問われるとこう答えた。

 「2ケタ勝てるように頑張ります」

 新入幕の先々場所、新関脇の先場所はいずれも場所前の目標は「勝ち越し」と、周囲の期待からすればかなり“控え目”だった。

 「あの体調で勝ち越せたのは、ひとつ経験になった。彼にとって大きい」と師匠は弟子の思いを代弁する。先場所の勝ち越しが“怪物”に更なる自信をつけさせたのは間違いなさそうだ。ただし、課題も決して少なくない。

 「当たって瞬時に廻しを取って攻めることができなきゃ。大関?まだまだ」と元横綱千代の富士の九重親方は手厳しい。テレビ解説でおなじみ、元横綱北の富士氏は「今年中の大関もあるんじゃないか」と期待しつつも「ヌーッと立って上手を取りにいくあの立ち合いだと苦労するな」と立ち合いに難ありと見る。

 「立ち合いに集中して、当たり負けしないように稽古していきたい」と本人もその辺りは自覚している。欠点を是正するため、年末は“ケンカ四つ”である左四つの遠藤がいる追手風部屋へ出稽古に日参した。

 果たして、相撲のうまい遠藤に立ち合いで得意の左上手をほとんど取らせてもらえず、内容的には相手の圧勝。遠藤は逸ノ城の左カイナを徹底して下からおっつけながらこれを殺し、浅い右上手を引きつけて左を差す。あるいは“怪物”の懐に入って両差しとなっての一気の寄り。なすすべがなかった逸ノ城だったが、稽古場よりも本場所で力を発揮するタイプだけに、初対戦が予想される初場所では出稽古の成果を見せてくれるに違いない。

 課題を克服できれば、おのずと目標である10勝以上も見えてくる。そうなれば、“大関取り”のムードも醸成されてくるだろう。一方で心配なのは増え続ける体重だ。これ以上増えれば動きは鈍くなり、膝に負担がかかるのは必至。致命傷にもなりかねない。

 「ベストは185キロ」と言うがこの半年で約20キロ増え、番付発表翌日の計量では202キロ。ご飯の量は制限しているものの甘いものには目がなく、12月24日の会見では大好きなアイスや生クリームの話題になると、引き締まっていた表情が見る見るうちに崩れていった。

 「クリスマスケーキは駄目」と師匠から釘を刺されると、恨めしそうな顔つき。どうやら、最大の敵は自身の心の中に潜んでいるようだ。(相撲ジャーナリスト・荒井太郎)

 ◆荒井太郎(あらいたろう)  1967年東京都生まれ。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。1月新創刊『相撲ファン』責任編集。著書に『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。

続きを表示

2015年1月2日のニュース