新国立建設で奮闘「神宮小町」 本番まであと5カ月「娘を嫁に出す気分」

[ 2020年2月24日 09:30 ]

国立競技場の建設現場で重機の前に並んだ「神宮小町」のメンバーら。前列右端がリーダーを務めた広作利香さん。左から3人目が末田優子さん
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 東京五輪・パラリンピックのメイン競技場として昨年末、新装された国立競技場の建設現場では、多くの女性が活躍した。前回1964年大会の舞台となった旧国立競技場で“男の聖域”だった当時と様変わり。「神宮小町」と呼ばれた女性たちは、五輪本番を「娘を嫁に出す気持ち」と心待ちにしている。(岩田 浩史)

 工事を請け負った大成建設(東京都新宿区)で取材に応じたのは、同社の広作利香さん(48)と末田優子さん(36)。りりしい作業服姿ながら「カープ女子なので」と笑う末田さんの足元は、真っ赤な作業靴で決まっていた。小脇に抱えたヘルメットの顎ひもは透明で「日焼け跡が残らないようにするため」。実用性重視の現場スタイルにも、女性らしいこだわりが垣間見えた。

 安全帯と呼ばれる命綱も女性用に金具を軽量化したものがあるという。同席した広報担当の女性によると「軽いのは男性も歓迎で、使ってる人もいますよ」。女性の現場進出が起こした“化学変化”の一例だ。

 国立競技場で働く女性たちは「神宮小町」と呼ばれ、とびや重機オペレーター、測量士などあらゆる職種の約200人が、それぞれの持ち場で活躍。2人はその中心的な役割を担った。

 リーダーを務めたのは広作さん。2016年12月の着工時から国立競技場に入り、女性でただ一人の副所長を務めた。資材の調達や施主の日本スポーツ振興センター(JSC)との交渉役を務める「工務」を担当しながら「女性が働きやすい現場づくり」に尽力した。

 中でも心を砕いたのが「小町」たちの休憩所づくり。現場では作業着姿の小町も、通勤時の服装は他の職場と変わらない人が多い。更衣室には化粧台や姿見を置き、シャワールームも設けた。トイレには温水式のシャワー便座、音消しの音響装置を設置して「オフィスと同じ環境」を目指した。

 小町たちの声を集めようと「意見箱」も設置。日焼け止めクリームや消臭スプレーの要望など、さまざまな声に可能な限り応えようと努めた。

 敷地面積10万9800平方メートルで、1日最大2800人がうごめく“マンモス現場”。休憩所は「日々変化する資材や機材の搬入経路、作業員の配置、工事の進捗(しんちょく)に合わせて引っ越しする必要があり、大変だった」(広作さん)という。

 かつては「きつい・汚い・危険」の3Kと言われ、今も男社会のイメージが強い建設現場。まだまだ女性は少数派だが、2009年入社の末田さんが「当初は現場に女子トイレはなかったけど、徐々に変わってきました」と言うから、ここ10年で女性の進出は大きく進んだようだ。

 広作さんが29歳で結婚した2000年ごろ、現場に出る女性は「自分一人だけだった」という。仕事と家庭の両立を支えたのは「自分が結婚して退職する前例になりたくない。女性が現場に出る道を途絶えさせてはいけない」という思い。責任感の強さから「精神的に苦しんだ時期もあった」というが、建築の楽しさを後輩女性にも味わってほしかった。

 建築現場の仕事について「女性の方が向いている部分もある」との自負がある。工事の段取りを作業員に伝える場面などを例に挙げて「絶対、女性の方が丁寧に伝えようとする。男性は言いっ放しの人が多い」と指摘する。危険が伴う現場では、一人一人の作業内容の理解度が重要になる。

 人手不足に悩む建設業界では、現場で働く女性を「けんせつ小町」と名付け、育成に力を入れている。“男の聖域”のままでは立ち行かないとの危機感がある。男女のバランスの取れた現場を目指している。

 五輪本番まで5カ月。2人は「あそこで人が走るって不思議ですね。工事中は走るのを禁止されていたので」と笑う。広作さんは「控室の壁を負けた選手がバンバン叩いたりしませんかね」と不安そうだ。「愛情込めた建物。娘を嫁に出すってこんな気分なんでしょうか」としんみり話した。

 《屋根、柱、コンクリート 世界最高峰の技術が集結》国立競技場は、世界最高レベルの建築技術が詰まった建物。プロだからこそ感じる魅力がある。広作さんによると「真ん中がぽっかり開いた大屋根は、片方だけを柱が支える“片持ち”という方式で、屋根が延々と60メートルも延びていく姿が美しい。柱もそんなに太くないのが良い」という。末田さんは「コンクリートの打ちっ放し面の仕上がりは、頬ずりしたくなるような美しさだった」と、一流職人の手仕事を絶賛。ただ、ほとんどのコンクリート面は保護剤などが塗られており、現在は観賞はできないようだ。

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