厚さ100センチ超! ピクシー、カンナバーロ、ロイ・ホジソン…エキス詰まったノートでいつか日本に
コラム「私の相棒」~セルビア代表コーチ・喜熨斗勝史氏
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その人の人生を語る上で欠かせないモノやコトは必ずある。一つのことを極めようと日々奮闘している人ならなおさら。そんなアスリートらの“相棒”を紹介する。
セルビア代表コーチとしてW杯カタール大会に臨む喜熨斗勝史氏(57)には、肌身離さず持ち歩く一冊のノートがある。セルビア代表を指揮するドラガン・ストイコビッチ監督が名古屋監督に就任した2008年から記しているというサッカーノートだ。
「それまで多くの外国人指導者の下でコーチを務めて、日本人と違う感覚を持っているとは思っていました。そしてピクシー(ストイコビッチ監督の愛称)と出会って、得た経験を残すにはどうしたら良いか。選手に分かりやすく伝えるためにどうすれば良いかと思った時、手書きでノートに落とし込もうと考えたのが始まりです」
日々の練習内容はノートではなく、1枚の用紙に記す。厚さはわずかだが、1年間では約10センチにもなる。足かけ13年間で1メートルを超える分厚さになった。その中から良質のものだけをノートに記していく。最先端の知識や経験、練習法を落とし込んできた。
ノートには喜熨斗コーチが試合で最も大事にする原理原則もあれば、こだわりの部分も記す。「攻守の戦術、絶対に突くべきエリアと突かれてはいけないエリア。シチュエーションごとのクロスへの入り方、攻撃チャンスの作り方」など、細部は図解入りで記載されている。ピクシーの“エキス”だけではない。C大阪で師事したレネ・デザイェレ氏や中国代表や広州恒大で監督を務めた元イタリア代表DFファビオ・カンナバーロ氏、元イングランド代表監督のロイ・ホジソン氏ら触れ合った指導者のエッセンスも凝縮。日々進化するサッカー界と歩調を合わせ、加筆と修正を繰り返している。
ノートは昨年3月に就任したセルビア代表でも生きた。「コーチ就任直後に行われた3月のW杯欧州予選アイルランド戦。勝利したけど、2失点しました。試合後、失点シーンを編集したビデオを見せつつ、このノートを使ったんです。選手もそれで納得してくれました」。欧州予選は同組の強豪ポルトガルを抑えて1位突破。ピクシーの強烈なカリスマ性や質の高い選手がそろっていることもあるが、喜熨斗コーチのサポートも大きかった。
もちろん、W杯カタール大会にも持参する。そして将来的にはJクラブの指揮官として、ノートに記した全てを実行したいと願っている。 (飯間 健)
◇喜熨斗 勝史(きのし・かつひと)1964年(昭39)10月6日生まれ、東京都練馬区出身の57歳。東大大学院修了後の95年6月、平塚(現・湘南)のユースフィジカルコーチで指導キャリアをスタート。C大阪、浦和などのフィジカルコーチを経て、08年から15年夏まで名古屋でコーチなど歴任。21年3月からセルビア代表コーチ。愛犬は2頭のシェットランドシープドッグ。1メートル76、70キロ。
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