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鳥栖20億円赤字の疑問

[ 2020年5月4日 09:00 ]

ウェブでのサポーターミーティングを開いたJ1鳥栖の竹原社長

 【大西純一の真相・深層】鳥栖の経営が深刻になっていることが明らかになった。運営会社が株主総会で開示した経営情報によると約20億円の赤字。竹原社長は新スポンサーのめどが立っていると説明し、「破綻する不安は100%ない。資金がショートする恐れも当面ない」と言っている。前年約42億円あった売り上げが25億円に減少したためで、有力スポンサー2社が撤退し、広告収入が23億円から8億円に減少したことが大きな要因。高年俸のフェルナンド・トーレスの獲得なども負担になったのだろう。

 現在Jリーグは新型コロナウイルスの感染拡大の影響で公式戦が中断し、どのクラブも苦境にあえいでいるが、鳥栖の20億円赤字は前年度決算のこと。不思議なのは「なぜ突然20億円もの巨額の赤字が表面化したのか」ということだ。

 Jリーグは09年の大分と東京Vの財務状況悪化をきっかけに各クラブの財務体質の健全化を重視。FIFAがクラブライセンスを導入したこともあってJリーグも12年からクラブライセンス制度を導入した。Jリーグに参加を希望するクラブは経営情報などを提出し、Jリーグから独立した第三者機関のクラブライセンス交付第一審機関(FIB)の審査を受ける。問題がなければ理事会の承認を経てJ1、J2、J3のライセンスが交付され、条件を満たしていなければ不交付。ずさんな経営を防ぐためにもいい制度だ。

 3年連続赤字でライセンスが不交付となるなど厳しい基準もある。あるクラブ幹部によると「この数字は何だと、かなり細かいところまで突っ込まれる」という。当然経営悪化の予兆もチェックされるはずだ。

 鳥栖も財務状況などを厳しくチェックされて今季のJ1ライセンスを交付されているはず。それがいきなり20億円もの巨額な赤字。これまでこれだけ巨額の単年度赤字を出したJクラブがあったかどうかわからないが、売り上げ25億円の会社が20億円の赤字を抱えたら、普通の会社なら大ピンチだ。

 一方でJリーグは以前から経営が厳しくなったクラブを支援するために「リーグ戦安定開催融資制度」を設けている。シーズン途中で経営が破綻するチームが出たのでは、リーグ戦の開催に支障が出てしまうからだ。さらに先日は三菱UFJ銀行などと約200億円のコミットメント契約を結び、有事に備えたが、この制度を使えば鳥栖もひと息つける可能性はある。

 確かに大型スポンサーが急に撤退すればこういうことは起きる。フェルナンド・トーレスの獲得など選手編成はクラブの裁量、経営も自主性が認められなければいけない。20億円の赤字は竹原社長に経営責任があることはまちがいない。しかしこういうことが起きないようにするためにクラブライセンス制度を導入したのではなかったのか。

 何人もの専門家がチェックしているのにどうして予兆が見逃されたのだろう。スポンサーとの契約状況は確認されないのだろうか。これでは大分や東京Vの教訓が生かされていないし、クラブライセンス制度が形骸化してしまう。Jリーグが末長く発展するために、Jリーグもしっかりと説明してほしいものだ。

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2020年5月4日のニュース