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【オシムのW杯総括1】個より「集団性」一貫した育成結実したドイツ

[ 2014年7月15日 09:35 ]

<ドイツ・アルゼンチン>イグアインと交錯しながらクリアするドイツのGKノイアー(AP)

 1カ月間にわたったW杯ブラジル大会の熱い戦いは、ドイツの優勝で終わった。決勝の勝敗を分けたものは何か、今大会で見えたサッカーの新しい潮流は何か。そして、サッカーが目指す方向は…。元日本代表監督のイビチャ・オシム氏(73)が、大会を振り返った。

 決勝戦は見ごたえがあった。特徴を出し、得点は多くなかったが、双方の気持ちが伝わってきた。ドイツには優勝おめでとう、アルゼンチンにもよくやったと言いたい。

 アルゼンチンは「メッシのチーム」だ。メッシが守備をしない代わりに、他の選手は攻撃時にメッシを生かすために結束した。メッシほどの選手を擁する場合、そういうやり方も現実的だと思う。MFマスケラーノ、DFのデミチェリス、GKロメロらを軸にした「守備のチーム」が、攻撃の武器としてメッシを使うという考え方だ。

 しかし、メッシはドイツに抑えられた。数少ないFKも精度を欠いた。イグアインやパラシオのシュートが決まっていればまた別の話になるが、よく走るドイツの組織的な守備が成功したと言っていい。

 ドイツは対照的に、中盤からどんどん飛び出してくる攻撃だ。しかもゲッツェ(22)をはじめミュラー(24)、クロース(24)、シュールレ(23)ら若い。4年後にもまだチームの中心で、しばらくはドイツの時代が続くかもしれない。

 ドイツは優勝候補ブラジルとアルゼンチンを破った。これは簡単なことではない。一度成功したら、二度三度とくり返していくことが進歩への道だ。ドイツはそれができた。日本もここ数年、何度かフランスやベルギーなどに勝っているが、それをくり返し、継続することができなかった。

 ドイツの特長は、コレクティビティー(集団性)だ。個々の選手のレベルも高いが、一貫した育成方針の下でグループをつくり、息のあったコンビネーションができるように育てられた。ブラジルのようにネイマール個人に依存するチームはもろい。コンディションや故障で出場できないと、全く別のチームになる。これはドイツの勝因でありブラジルの敗因だ。

 ドイツの第2のポイントはフィジカル。といっても、かつてのような身体のサイズや強さではなく、よく走ることだ。スプリントと、それをくり返す持久力だ。走ることができれば相手よりも多い人数で試合するのと同じことで、戦術的バリエーションが広がる。若く、走力も技術もある選手を選抜することでスペインのようなパスサッカーもカウンターもできる。相手の出方に合わせることも、機動力をいかして主導権を取ることもできる。

 さらに今回のドイツは「多民族性」がある。東欧系やトルコ系、アフリカ系の選手が入り、従来のドイツにはなかった要素が加わる。ある意味でドイツ人以上にドイツ人らしく成長し、ドイツ代表の新しい姿を象徴している。このような多民族性は差別が強い社会では不可能だ。ドイツの移民政策が安定し、社会が成熟して可能になった。

 特筆すべきはGKノイアーの存在だ。彼なしに優勝はあり得なかった。シュートを防ぐ能力だけでなく、11人目のフィールドプレーヤーとして、ゴールから30メートルの危険を取り除いた。足元の技術、スプリント能力、ハーフウエーラインまで届くロングスローなど現代サッカーのGKの発展方向を示している。ほかにも優れたGKが目立ったW杯だった。

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2014年7月15日のニュース