【マイルCS】グランアレグリア 異例の120点 藤沢和師 最後の傑作にふさわしい気品と風格

[ 2021年11月16日 05:30 ]

鈴木康弘「達眼」馬体診断

グランアレグリア
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 満点超えのエンディングだ。鈴木康弘元調教師(77)がG1有力候補の馬体を診断する「達眼」。第38回マイルCS(21日、阪神)では連覇とG16勝目が懸かるグランアレグリアに異例の120点を付けた。達眼が捉えたのは来年2月で定年を迎える藤沢和雄調教師(70)最後の傑作にふさわしい気品と風格。グランも法人クラブの規定で来年3月までの引退が決まっており、師と共にG1のフィナーレを飾る構えだ。

 巨匠と呼ばれる舞台監督に送り出されて最後のステージに立つ名女優のような磨き抜かれた気品と風格。グランアレグリアの余裕に満ちた立ち姿に私は年がいもなく深い感動と興奮を覚えました。余裕が気品と風格を醸成する――。舞台芸術のエッセンスを体現するたたずまい。サラブレッドは走る芸術品といわれますが、G15勝の名牝も晩節を迎えて一級の芸術品の域に達しました。現役最晩年を迎えた藤沢和雄調教師が送り出す最後の傑作にふさわしい姿です。

 穏やかなまなざし、ごく自然になびかせる尾、ゆったりと大地を踏む四肢…。モグシ(簡易頭絡)だけで引き手を遊ばせながら気持ち良さそうに立っています。天皇賞・秋の激闘から3週間足らずでこれほど余裕のある姿を見せる牝馬は見たことがありません。筋肉や腹周りの張りも天皇賞時と寸分も変わらない。心身共に前走のダメージは皆無です。

 状態が悪い時にレースを詰めて使えばダメージが残りますが、良い時には詰めて使ってもダメージは残らない。グランアレグリアが典型です。それにしても、天皇賞で力を振り絞りながら完全に回復しているとは…。心身の強じんさがなせる業としか思えません。

 太い首、肩とトモには岩のような大きな筋肉。ダウンジャケットでも着込んだような厚みを増しています。G1初制覇を飾った一昨年の桜花賞時に476キロだった体重は昨年の安田記念で492キロ、スプリンターズS、マイルCSでは500キロを超えました。体重増は筋肉の増量分。加齢とともに筋肉マッチョなマイラー体形が完成したのです。今春も何度か指摘しましたが、中距離をゆったりと走るには強すぎる筋肉。天皇賞・秋の2000メートルは長かった。それでも、輝きは失っていない。晩節を汚すように尻すぼみで終わるクラシックホースが多い中、その有終の輝きには驚きを禁じ得ません。

 ラストになるであろうG1は最も強く輝いたマイルの舞台。現役最後の馬体撮影に臨んでも、いつも通り四肢の蹄を定位置に置いた行儀の良い姿勢で写真に納まりました。蹄の先まで行き届いた藤沢和雄厩舎のしつけ。一時代を築いたトレーナーのG1挑戦はスペイン語で「無上の喜び」(グランアレグリア)と命名された傑作とともに大団円を迎えます。(NHK解説者)

 ◇鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の77歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。19年春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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