【阪神JF】リアアメリア90点 柔の“大鵬”トモと胸前から肩にかけ弾力ある筋肉

[ 2019年12月3日 05:30 ]

鈴木康弘「達眼」馬体診断

<阪神JF>大鵬をイメージさせる柔軟で豊富な筋肉を付けたリアアメリア
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 柔と剛の2強対決だ。鈴木康弘元調教師(75)がG1有力馬の馬体を診断する「達眼」。2歳女王決定戦「第71回阪神JF」(8日、阪神)ではデビュー2戦2勝で重賞を制したリアアメリアとレシステンシアを1位に指名した。達眼が捉えたのは昭和の大横綱・大鵬の「柔」と、その好敵手だった横綱・柏戸の「剛」をイメージさせる体つき。有力候補のボディーを大相撲黄金期の横綱になぞらえながら解説する。 阪神JF

 東京五輪で沸いた64年の大相撲春場所千秋楽。大鵬、柏戸両横綱の全勝対決に大阪府立体育会館は五輪にも劣らぬ熱気と興奮に包まれていました。力で押しまくる柏戸の直線的な相撲は「剛」。一方、自分の体勢になるまで我慢し、技で対抗する大鵬の曲線的な相撲は「柔」。柔よく剛を制すか。それとも、剛よく柔を断つか。柏鵬(はくほう)時代と呼ばれた大相撲黄金期の名勝負。木村庄之助の軍配が返ると、熱気と興奮はピークに達しました。

 リアアメリアとレシステンシア。2戦2勝でG1を迎えた両馬の対照的な姿はセピア色の思い出話(私の20歳の記憶)で恐縮ですが、55年前の柏鵬対決を思い起こさせてくれます。レシステンシアの分厚く硬質な馬体が「剛」なら、リアアメリアは…「柔」。柔軟で豊富な筋肉を前後肢にバランスよく付けています。特に目を引くのがトモ(後肢)と胸前から肩にかけての筋肉。とても弾力性がある。ディープインパクト産駒らしい、しなやかな体つきです。柳に雪折れなし。柔らかくてしなやかなものは一見弱そうでも、硬いものより耐久性に優れていることのたとえですが、この黒鹿毛馬も柳のようなしなやかさです。

 腹周りもフックラしている。四肢の腱がしっかり浮き出て、脚元も丈夫。各部位が調和し、美しい輪郭を描いている。昨年の阪神JFを制したダノンファンタジーも同じ中内田厩舎のディープインパクト産駒ですが、太い尾を含めて、この1年上の先輩に似た姿形をしています。

 ただし、立ち方は2歳暮れのダノンファンタジーと少々異なる。賢さを示す竹を割ったような耳の立て方と目の輝き、適度なハミの取り方は共通していますが、四肢に力を入れすぎている。立ち合い前の力士が四股を踏むような緊張感の伝わってくる立ち姿です。これからはより厳しい戦いが待っているのだから今はリラックスしてほしい。ダノンファンタジー級の柔軟な馬体を持っているだけになおさらそう感じるのです。

 64年大相撲春場所千秋楽の結びの一番。左四つから柏戸が力任せに踏み込むと、大鵬は下がりながらのすくい投げ。木村庄之助の軍配が大鵬に上がりました。柔よく剛を制す。リアアメリアの「柔」もレシステンシアの「剛」を制すか。馬体の評価は五分と五分。どちらに軍配が上がるかを見通すのは難しい。

 スポーツ選手も競走馬も同等の力量を持ったライバルがいてこそ強くなります。巨人の長嶋茂雄には阪神の村山実、柔道の山下泰裕には斉藤仁がいました。昭和の競馬を振り返れば、私が調教助手時代に携わったハイセイコーにはタケホープがいた。そして、令和最初の2歳G1にはレシステンシアの「剛」を受けて立つ「柔」の女大鵬リアアメリアがいます。(NHK解説者)

 ◆鈴木 康弘(すずき・やすひろ)1944年(昭19)4月19日生まれ、東京都出身の75歳。早大卒。69年、父・鈴木勝太郎厩舎で調教助手。70~72年、英国に厩舎留学。76年に調教師免許取得、東京競馬場で開業。94~04年に日本調教師会会長を務めた。JRA通算795勝、重賞はダイナフェアリー、ユキノサンライズ、ペインテドブラックなど27勝。今春、厩舎関係者5人目となる旭日章を受章。

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2019年12月3日のニュース