【中村鶴松の鶴明times 2】「一番憧れている同世代」尾上右近と師の思いつなぐ「春興鏡獅子」

[ 2025年9月7日 09:00 ]

「春興鏡獅子」を勤める中村鶴松(撮影・桑田 絵梨)
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 【中村鶴松の鶴明times】歌舞伎の世界を描いて大ヒット中の映画「国宝」(監督李相日)の主人公の喜久雄さながらに“部屋子”からスターダムに駆け上がろうとする俳優がいる。中村鶴松(30)だ。一般家庭で生まれ、十八代目中村勘三郎さんの元で修業する部屋子となり、歌舞伎俳優の人生を歩み始めた。本連載「中村鶴松の鶴明times」ではそんな鶴松のこれまでの歩みと今後について迫っていく。

 ちなみに連載タイトルの「鶴明(かくめい)」は、自身の名前の「鶴」と師勘三郎さんの本名「哲明」から一文字ずつ取ったもので、歌舞伎界に革命を起こすという意気込みも込められている。

 第2回は「ケンケン」と慕う尾上右近(33)と、師勘三郎が踊り続けた「春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)」への思いを語った。

 右近を初めて認識したのは7歳の頃。以来、子役時代に何回か共演はあったものの、2021年に「ぢいさんばあさん」(歌舞伎座、十二月大歌舞伎)まで本格的共演はなかったという。

 だが、そこから右近の自主公演「研の會」に出演するなど親交を深め、その歌舞伎への熱意に触発された。22年の自主公演「鶴明会」でも、自主公演の先輩としてアドバイスを受けた。「一番憧れている同世代の存在かもしれない」と語る。

 右近は曽祖父に六代目尾上菊五郎を持つが、父は清元の浄瑠璃方で、清元宗家七世家元の清元延寿太夫。清元とは歌舞伎や歌舞伎の舞踊にかかせない音楽の一つで、語り手である太夫と三味線からなる。右近自身も歌舞伎俳優の他に、太夫「清元栄寿太夫」としての一面も持つ。

 歌舞伎の舞台に関わる家業ではあるが、鶴松同様に純粋な歌舞伎俳優の家柄ではない。

 「僕が経験してきたような悔しい想いをケンケンは若い頃沢山経験していると思う。直接は話さないですが、こういう立場で歌舞伎を続ける大変さというのはともに理解していると思います」と苦境を過ごしてきた右近をおもんぱかった。

 それでも21年に南座公演で主演を勤めるなど、右近は若手のホープとして活躍中。今年10月には歌舞伎座で歌舞伎の三大狂言の一つ「義経千本桜」で「佐藤忠信実は源九郎狐」の大役を務める。

 「本人に言ったことはないけど、憧れている。彼は良い家の生まれですけれども、自分で道を切り開いてきた。舞台を見に来た時も最初にスタンディングオベーションをしてくれて、それは今でも忘れられない」

 その生きざま、芸への向き合い方を陰ながら尊敬しているという。

 そんな右近の歌舞伎の原点は六代目菊五郎の「春興鏡獅子」。3歳の時、祖母の家で見た六代目が踊る映像の美しさに魅せられて歌舞伎俳優を志した。「研の會」の第1回公演の演目に選ぶなど、この舞踊には常に特別な思いを抱き続けてきた。そして念願かない、今年4月には歌舞伎座で初めて鏡獅子を勤めることがかなった。

 鏡獅子は前半は可憐(かれん)な女方、後半は荒々しい獅子の姿と、俳優の2つの魅力が楽しめる舞踊。くしくも鶴松もこの演目には人並みならぬ思いがある。この演目は勘三郎さんが当たり役とし、生涯大切に踊ってきた作品の一つだ。

 「ケンケン程ではないかもしれないが、鏡獅子は一番大切な演目。自分が好きなのもあるんですが、勘三郎さんが“俺のルーティンワーク”と言っていた作品。本当に死に物狂いで稽古をしていたので、勘三郎さんが追い求めていた鏡獅子というものの背中を追い求めてみたい」

 鶴松も1回目の自主公演には鏡獅子を選んでいる。兄と慕う中村勘九郎(43)も「お父さんくらい鏡獅子への想いが強いから、あなたもお父さんの遺志をつないでいってもらいたい」と鶴松が“中村屋の鏡獅子”をつないでいくことに期待している。

 「身体的な負担が大きい。僕も本番に至るまでの自主的な稽古の繰り返しで膝を折れなくなるくらい大分膝を痛めてしまった。身を粉にしないと物理的に一生負うけがをするくらい、大変な演目。でも千穐楽が終わるとまたやりたくなる魔力がある」

 鏡獅子に魅せられた男たちが、歌舞伎をさらに盛り上げていく。

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