【売野雅勇 我が道30】妹と川で泳いでいた幼い日 僕の故郷の情景「渡良瀬橋」

[ 2025年8月31日 07:00 ]

小学4年の時、妹と渡良瀬川で水遊び。後方に見えるのが渡良瀬橋

 ♪ビルの透き間 タワーが光る――と歌う、矢沢永吉「AZABU」は夜の麻布を歩いていた時にふと目にした東京タワーに焦点を当てました。ビルの間からいつも目にしている日常。それを異化することで特別なものに変えてしまう。作詞のテクニックのひとつです。

 中森明菜「少女A」では、タイトルをはじめ社会の主流派ではない言葉遣いで注目を集めることに成功。さまざまな手法でヒット作を書いた僕がビックリした曲がありました。森高千里「渡良瀬橋」です。

 渡良瀬橋があるのは僕が生まれた栃木県足利市。市の中心部を東西に流れる渡良瀬川に架かる12本の橋の一本で、子供の時はただ「鉄橋」と呼んでいました。生家の至近にある夕日の名所です。

 ♪渡良瀬橋で見る夕日を――という歌い出しを聴いた時、妹・恭子と川で泳いでいた幼い日のことが浮かびました。隣家で飼われていたペリーと祖母と土手を競馬場まで散歩をした懐かしい日のことが思い出されました。地域の人々が集う「八雲神社」など地理を正確な遠近法で描いた歌詞を読んで「森高さんは足利に恋人がいたの?」と想像していました。

 「床屋」と歌われているのは、通7丁目の交差点にある尾澤理容店。足利市立第一中学校時代に、席が隣だった男の子の店で、子供の頃は彼のお父さんに髪を切ってもらっていました。店先には歌詞にも登場する「公衆電話」が今も残っています。歌詞の世界を味わうことができると森高さんファンの間で聖地化。1993年に出た曲ですが、床屋の友人によるといまも森高さんファンが訪れているようで、歌の力に驚かされます。

 彼はこの曲がヒットした時「売野が書いたんだ」と思ったそう。僕の歌詞ではないことを告げると「お前が書かなきゃ」と言われました(笑い)。

 育った町の情景はまだ歌詞に描いていません。でも母校の男子校と足利女子高が統合して2022年に開校した県立足利高等学校の校歌を作詞しました。作曲は菊池桃子「Say Yes!」などで共作した林哲司さん。優美なメロディーに乗せ、♪魂にそっと耳を澄まして 愛が聴こえる彼方(かなた)目指せ――と未来を生きる彼らの一生の糧となる言葉を探しました。道に迷いそうな時は、自分の中にある声に耳を傾けて。そしてその声を信じて大空へと羽ばたいてほしいです。

 そんな故郷・足利で10月11日、トーク&コンサート「音を照らす、雅なことば」に北原照久さん、ピアニストの熊本マリさんらと出演します。11月9日には都内で「アニソンmeets CITY POP~売野雅勇×林哲司の世界~」という豪華ゲストがそろうトーク&ライブもあります。来年は作詞家デビュー45年。宇都宮での「MIND CIRCUS」を皮切りにいろいろな面白い企画で皆さんと一緒に楽しみたいと思っています。ひと月の間お付き合いありがとうございました。それでは、またどこかで! =終わり=(構成・西村 綾乃) 

 ◇売野 雅勇(うりの・まさお)1951年(昭26)2月22日生まれ、栃木県足利市出身の74歳。企業のコピーライターなどを経て、81年作詞家に。中森明菜「少女A」、チェッカーズ「涙のリクエスト」、郷ひろみ「2億4千万の瞳」などのヒット曲を生み出した。これまでに1500曲以上の歌詞を制作。2026年に活動45年の節目を迎える。

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