前田日明氏 もしも新日本プロレスに残っていたら…

[ 2023年2月6日 09:00 ]

メールマガジン「日本人はもっと怒ってもいいはずだ」の配信を始めた前田日明氏
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 【牧 元一の孤人焦点】元格闘家の前田日明氏(64)が1月にメールマガジン「日本人はもっと怒ってもいいはずだ」の配信を始めた。自身のYouTubeチャンネルの登録者数が21万人を超える中での新たな試みの理由や豊富な語彙(ごい)の要因、プロレスのことなどを本人に聞いた。

 ──なぜ今、メールマガジンを?
 「規制が多すぎるからですよ。言えないことがいっぱいある。言論の自由があるなんてウソ。言葉狩りが凄い」

 ──YouTubeやメルマガを拝見すると、語彙(ごい)が豊富で、読書量の多さが分かります。
 「本を一番読んでいたのは中学、高校の頃です。高校の時は小林秀雄を読んでました」

 ──なぜ小林秀雄を?
 「知り合いに勧められたんですよ。当時、読んで分かったかと言えば、分かってないんです。後年、東京に出てきて、26歳くらいの時、小林秀雄が学生に対して講演しているテープを聴いたら、よく分かった。人生経験のない少年にとって、小林秀雄の洞察力は新鮮に感じる。仙人の箴言(しんげん)のように思える。それを完コピしてしゃべるだけなのに友だちに『そんなことを考えてるのか?』とびっくりされる。そういう効能があるから、もっと読もうと思ったんですね」

 ──新生UWF旗揚げのあいさつでは、フランスの詩人・ヴェルレーヌの「選ばれてあることの 恍惚と不安と 二つわれにあり」を引用していましたね。
 「あれは太宰治が短編小説集『晩年』の中の『葉』で引用していたものです。俺なんかが中学、高校の頃、空手とか、そういう武道をやっている人たちの中に、本に埋もれて暮らしているような人がたくさんいて影響されたこともあります。いつも読んでいるから、トイレも活字がないと出ない(笑)。夜は本を読んでいて寝落ちする。昔ほどではないですけど、今でも、読んでいて気がつくと朝になっていることがあります」

 ──読書傾向は?
 「俺の読書は収集癖っぽいですね。ドキッとする文章を探すんです。ジョルジュ・バタイユにも相当ドキッとした。花を美しいと思うのは外見が人間の理想に合致しているからで花の内側は外見の美しさに見合っていないというような文章を高校生くらいのガキが読むと感心する。それを女の子にそのまま話すと、女の子は『この人は頭がいい』と思ってくれる。当時、本はナンパアイテムでした(笑)。ナンパだけじゃなく、大人に『こいつはただ者じゃない』と思わせる武装にもなりました」

 ──新日本プロレスに入門した後も大変な練習の合間に読んでいたのですか?
 「デビューして1年くらいたった頃、週刊誌が新日本プロレスの巡業をルポしたことがあったんです。俺が列車の最前列に座って小林秀雄の『考えるヒント』を読んでいたら『“考えるヒント”を読むようなレスラーがいる』と書かれました。その時は、写真を撮るというから、わざと小林秀雄を読んだんですけどね(笑)」

 ──前田さんがもしも新日本プロレスに残っていたらどうなっていたでしょう?
 「海外遠征をやり直して、5年くらいとどまって、キャリアを磨きましたよ。俺が海外遠征したのはたった1年でしたから。1年くらいじゃ新弟子と何も変わらない。それに、俺が遠征した時は小さいレスラーしかいなくて気を使ってやってました」

 ──海外遠征中、WWF(当時)での対ハルク・ホーガン戦を見たかったです。
 「ホーガンはチキンだからダメ(笑)。ハイキックは禁止、ニールキックも禁止、前から投げるのも禁止…。じゃあ何やんねん?という感じだった」

 ──対ブルーザ・ブロディは見たかった。
 「ああ、ブロディね…。でも、いずれにしても、もめただろうね。当時のプロレスはリング上で何が起こっても関係ない。無法地帯ですよ」

 ──SFっぽい話になりますが、全盛期のカール・ゴッチとの試合も見てみたかった。
 「嫌だよ(笑)。ゴッチさんは怖い決め方をするんだよね。練習で体験したけど、決められて1ミリ動くとボキッといっちゃいそうな感じだった」

 ──YouTubeチャンネルで、最近のレスラーは試合で受け身を取らないようにしているという話をしていましたね。
 「受け身を取るのは大変なんです。ダメージはないけど衝撃はあるし、横になった状態から立ち上がらないといけない。昔も年を取ったら受け身を取らないようにしていたんですよ。でも、見せ場で受け身を取らないといけない時にはちゃんと取ってた。今は見せ場でも取らない奴がいるし、取ってもボテッという受け身だから迫力がない。昔はロープに振られてショルダースルーで投げられるとバーンッと受け身を取るだけで客席がわいた。そういうレベルに至ってない」

 ──原因は?
 「首ができてないからですね。今の選手を見ると、首が細いじゃないですか。後ろにバーンッと倒れたら、首の強さがないと頭を打つんですよ。俺らは入門してブリッジをさんざんやらされて、それで首がある程度強くなってから受け身の練習をさせられた。3点ブリッジして、俺で最高400キロ、猪木さんは500キロを上に乗せてたからね。リングスをやっていた頃は、ブリッジはいらないかと思ってやってなかったけど、今考えれば必要だった。ブリッジは首の力だけで支えるんじゃなく肩の筋肉でも支える。首に重力がかかった時、肩の筋肉でブロックする感覚が身につくから打たれ強くなる。スリーパーをかけられても肩の筋肉でブロックするから決まらない。昔は首を決められるのがいちばん間抜けだった」

 ──興味深い話をありがとうございます。最後にメルマガでの抱負を。
 「元々、好奇心が旺盛なので、時事の話や興味があることを発信していきたいと思っています。よろしくお願いします」

 メルマガは基本的に月3回以上(約10日に1回)の配信を予定。登録のURLは「前田日明 メルマガ」で検索可能。将来的には有識者との対談企画、登録読者を対象としたオフ会なども考えているという。
 
 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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