橋本環奈と上白石萌音の親密感 NHK「ふたりのディスタンス」の象徴的場面

[ 2022年5月5日 07:45 ]

ドキュメンタリー番組「ふたりのディスタンス」の密着取材を受けた橋本環奈と上白石萌音(C)NHK
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 【牧 元一の孤人焦点】NKKのドキュメンタリー番組「ふたりのディスタンス『千と千尋の神隠しスペシャル 橋本環奈・上白石萌音』」(5日後10・00)には、制作に当たってリスクがあったはずだ。

 「ふたりのディスタンス」は2人の人物に焦点を当て、その距離感を見つめようという番組。女優の橋本環奈(23)と上白石萌音(24)は舞台「千と千尋の神隠し」で主人公の千尋をダブルキャストで演じる間柄だが、一種のライバル関係でもあり、密着取材をしても、2人の距離が縮まらないまま終わったり、仲の悪さが浮き彫りになったりする可能性もあった。

 制作統括の荒川格氏はこう振り返る。

 「『ダブルキャストの難しさ』について事前に取材していたので、環奈さんと萌音さんがギクシャクしたり、ザラザラした関係になることも想定はしていた。むしろ、取材者としては、そうした葛藤を超え、2人がどう切磋琢磨していくのか…という点に興味を抱いていたのも事実で、どんなことが起ころうともリアルに番組を作ろうと決めていた。しかし、結果的には、見事に裏切られた。編集中も、2人がお互いを信頼していることが手に取るようにわかるシーンを見るたびに温かな気持ちに包まれた」

 この番組を試写で見たが、2人の仲を象徴する場面があった。それは、舞台の開幕前日、帝国劇場のステージに2人が並んで立っている姿。カメラは2人の後ろ姿を捉えていて、表情は全く見えない。ところが、同じ場所で同じ物に視線を送っている2人の背中から強い親密感が伝わって来た。その背中に、高い目標に向かって共に歩んできた2人だけにしか分からない思いが表れているように見えたのだ。

 ディレクターの久保田暁氏はこう語る。

 「コロナ禍で稽古が中断するなどということもあり、2人は稽古の時間を十分確保できない中で本番を迎えた。本番ギリギリまで修正を繰り返していたため、完璧に覚えられるのか、珍しく、少し弱気になっていた環奈さんに、萌音さんが『やるしかない!』と励ますやりとりが新鮮だった。なぜなら、それまでの稽古場では、萌音さんは自称『ビビり』、環奈さんは本当に動じない方だったからだ。あの瞬間だけ、2人のキャラクターが逆転したのか、シンクロしたのか…。いずれにしても、土壇場で、2人の関係がさらに強くなっていくのを実感しながら撮影した」

 舞台「千と千尋の神隠し」は現在、福岡・博多座で継続中。2人はこの番組の放送を前にコメントを出した。

 「この番組のロケは昨年のポスター撮影から始まり、足かけ半年間ほぼ毎日と、文字通りの密着番組になりました。そういう意味でも、千尋をどのように形成させていったのか振り返りながら内省したり、また新たに気づくこともあると思うので、番組を見て明日からの舞台に生かしたいと思います」(橋本)

 「舞台のお稽古場が大好きな身としては、その様子を視聴者の皆様に垣間見ていただけるのがとてもうれしいです。ましてや今回は世界初演。まっさらな状態から、試行錯誤を繰り返して数々の難題に挑む、この上なく刺激的な時間でした。今も公演中ですが、私も番組を見て、初心にかえり、気づきをたくさん得ようと思います」(上白石)

 番組の終盤にも、象徴的な場面がある。舞台の開幕後、練習時のように一緒にいられなくなった2人が意思疎通のために始めた習慣だ。それは、本当に大切に思い合っている2人にしかできないことに違いない。今も博多座で続いているのだろうか…。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2022年5月5日のニュース