乙武洋匡氏 ゴールボール選手の超人的聴覚に注目

[ 2021年8月26日 05:30 ]

乙武洋匡氏
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 【乙武洋匡 東京パラ 七転八起(2)】パラリンピックには、多少のルールの違いはあれどもオリンピックと同じ種目もあれば、パラ独自の競技もある。視覚障がい者が3対3になって鈴の入ったボールを交互に転がし、得点を競い合うゴールボールはその一つだ。

 選手全員がアイシェードと呼ばれる目隠しをつけるため、完全に視界が奪われている。だが、高速で転がってくるボールに瞬時に反応する選手たちの動きを見ていると、「本当は見えているのではないか」と勘ぐってしまいたくなるほど。昨日(25日)、テレビで初めて観戦した視聴者は、選手たちの超人技に驚き、こぞって感想をSNS上に書き込んでいた。

 女子日本代表は世界ランキング5位の強豪で、ロンドン大会では金メダルを獲得している。当時キャプテンを務めていた小宮正江さんにお話を聞いたことがあるが、やはり鍵となってくるのは聴覚になってくるという。

 「もちろん他のスポーツ同様、瞬発力や持久力などの身体能力も求められますが、いかに聴覚を研ぎ澄ますことができるかが最大のポイントとなります。そして聴覚からの情報を瞬時に判断する能力ですね。例えば、“いまライト(右)の選手に当たったということは、左からボールが来るぞ”と体勢を整えたりするんです」

 また、聴覚が頼りとなるスポーツだからこそ、わざと逆サイドから音を立てて、相手の聴覚を撹乱(かくらん)するような駆け引きも行われるのだという。

 当然ながら攻撃時にも工夫が施される。

 「例えば遠心力を使うように回転して投げると、最後の最後まで音が消えたりするんです。この場合、球速が遅くなっても相手は予測しづらいので捕りにくいです」

 初戦、女子はトルコに黒星を喫してしまったが、男子はアルジェリアに13―4で勝利を収めた。もちろん日本代表の躍進を願ってはいるが、それ以上に国籍を問わず、選手たちの妙技を多くの方に堪能してもらいたいという気持ちを強く抱いている。

 ◇乙武 洋匡(おとたけ・ひろただ)1976年(昭51)4月6日生まれ、東京都出身の45歳。「先天性四肢切断」の障がいで幼少時から電動車椅子で生活。早大在学中の98年に「五体不満足」を発表。卒業後はスポーツライターとして活躍した。

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2021年8月26日のニュース