作家・坂井希久子氏 「おじさん」からの脱皮法
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【牧 元一の孤人焦点】時代小説「居酒屋ぜんや」シリーズなどで知られる作家の坂井希久子氏が「おじさん」を主題にした現代小説「雨の日は、一回休み」を今月14日に刊行する。
セクハラを訴えられた男性や女性の後輩に出世競争で敗れた男性、浮気で離婚された男性ら計5人を主人公とする短編集。坂井氏は「身につまされる男性がいるかもしれない。でも、決して『おじさん』を批判しているわけではないので、安心して読んでいただきたい」と話す。
執筆の発端は、坂井氏が女性ながら自身のおじさん化を編集者に打ち明けたこと。「それならば、おじさんの気持ちになって、おじさんの話を書いてください」と依頼を受けた。
坂井氏は「以前はセクハラされる側だったけれど、40代になって自分がセクハラする側になった。スキンシップだと思って遠慮なく男性や若い女性の体に触っていたので『私、おじさんなんだ!』と気づきました」と話す。
自身にもセクハラを受けた体験がある。20代の頃、フリーライターとして仕事をしていた時の話。仕事を取りまとめている男性と一緒にフィリピンに出張したところ、勝手にホテルの同じ部屋を予約されていた。
「指一本触らせずに寝ました。フィリピンの取材は面白かったけれど、ホテルに帰ってから気を抜けなかったので疲れた。自分自身も、おじさん性を浴びせられて来て、腹が立ったことや違和感をたくさん覚えています」
とはいえ、小説の主人公は、あくまでも、おじさん。自身の体験や感じたことではなく、おじさんの考えや思いを書く必要があった。
「おじさんが物語の中でへりくつをこねる間は自分がおじさんじゃないといけない。だから、書く時は、『おじさん、来い!』と、おじさんを降霊させる感じ。自分は少し後ろに下がって『おじさん、勝手なことを言ってんなあ…』と思います」
5人の主人公はいずれも現実感たっぷり。同年代の男性が読めば、人の振り見てわが振り直せ、の心境になるだろう。
「おじさんは前時代の男性像を強く植え付けられている。男はこうあらねば、という思いが強い。仕事をしなくちゃいけない、女性より偉くならなくちゃいけない…。生の自分自身を出せないし、出すのが恥ずかしい。自分自身があるのかどうかも分からなくなっているかもしれない」
この小説は、そうした習性をただ描いて終わるわけではない。各短編の主人公は紆余曲折を経ながら、結末では、前進している。男性読者に、おじさんからの脱皮法を示唆する作品と言える。
果たして、おじさんからの脱皮は可能なのか?
「まずは、いつまでも自分が若いと思い込まないこと。例えば、美術館とかで、若い女性に声をかける人がいるけれど、『キモイ!』と言われても文句は言えない。若い女性からすれば、本当に、キモイんですから。でも、私も、若い女性はキラキラして見えるので、光に誘われる蛾のような気持ちも分かりますが…」
おじさんに共感できる女性作家の力作。男性だけではなく、おじさんに日々囲まれて過ごす女性も楽しめそうだ。
◇坂井 希久子(さかい・きくこ)1977年、和歌山県生まれ。同志社女子大学卒業。2008年、「虫のいどころ」でオール読物新人賞受賞。17年、「ほかほか蕗ご飯 居酒屋ぜんや」で歴史時代作家クラブ新人賞受賞。著書に「泣いたらアカンで通天閣」「妻の終活」など。
◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴30年以上。現在は主にテレビやラジオを担当。
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