永瀬王座、「王将戦」初挑戦権 豊島竜王との“因縁”プレーオフ突破

[ 2020年12月1日 05:30 ]

王将戦 挑戦者決定リーグ・プレーオフ ( 2020年11月30日    将棋会館 )

プレーオフを制し笑顔でガッツポーズする永瀬王座
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 将棋の第70期王将戦(スポーツニッポン新聞社、毎日新聞社主催)挑戦者決定リーグは30日、5勝1敗同士のプレーオフを東京都渋谷区の将棋会館で行い、リーグ初進出の永瀬拓矢王座(28)が豊島将之竜王(30)=叡王との2冠=を128手で下し、渡辺明王将(36)=名人、棋王との3冠=への挑戦権を手にした。注目の7番勝負は来年1月10日、静岡県掛川市で開幕する。

 宿命のライバル豊島が右手を駒台にかざす。128手の戦いが終わり、永瀬は勝利の余韻に浸った。「(渡辺王将に)挑戦するのは久しぶりなので結果が出て良かったです」。軍曹のニックネームにそぐわない柔和な声が喜びを増幅させていた。

 振り駒で始まるプレーオフ。「歩」が3枚出て後手番に決まった時点で、永瀬は複雑な胸中を表情の奥に隠した。「自分は後手番が課題。少しずつ改善しなければと思っていた」。この日まで豊島とは16回対戦して7勝7敗2持将棋(引き分け)のタイスコアだが、先手番での成績は6勝1敗なのに後手では1勝6敗だ。しかも直近のJT杯決勝(11月22日=敗戦)まで先手が7連勝。トップ棋士同士の対戦でここまでコントラストが描かれるのも珍しい。

 データ上では圧倒的不利を引いた永瀬はしかし「自分にとって課題の一つ、テーマの一つ」と念じながら淡々と指し手を進めた。自王は雁木(がんぎ)で囲い、豊島の右四間飛車に対し丁寧に応接する。中盤、手に詰まる竜王を尻目にリードを奪い、じりじりと差を広げていく。72手目の△4六香で先手の急所にくさびを打ち込むと、自身の感覚とは対照的に優位を築き上げる。最後は豊島王を即詰みに討ち取った完璧なる勝利だった。

 「研究というほど深くはないんです。ただイメージのある将棋でした。今日1局をみれば(後手でも)それほど崩れず指せたのではと思います」

 あの藤井聡太2冠(18)とは研究仲間。高いレベルで日常的に切磋琢磨(せっさたくま)した地力には底知れぬ凄みがある。

 リーグ初出場で初挑戦を決めたのは、現行の7人制になった第31期以降、23期ぶり4人目の快挙だ。しかも今年のタイトル挑戦決定戦で2戦2敗という屈辱も「半返し」。渡辺王将とは2年前の棋王戦5番勝負で対戦し、フルセットで敗退している。「番勝負の経験値は大差ですが、なんとか勝負にしたい」。新春開幕の大勝負に自らを奮い立たせていた。

 《18年以来の開催》挑決リーグのプレーオフは第68期(2018年)の渡辺明棋王VS糸谷哲郎八段以来2期ぶりで、第61期(11年)以降の10期では実に5回目となる。リーグ5勝1敗同士の対戦は第65期(15年)の羽生善治名人VS久保利明九段(肩書はいずれも当時)以来だった。

 ◆永瀬 拓矢(ながせ・たくや)1992年(平4)9月5日生まれ、神奈川県出身の28歳。安恵照剛八段門下。2009年四段、16年の棋聖戦でタイトル初挑戦。19年には叡王戦、王座戦と立て続けにタイトルを奪取。タイトル通算は3期。

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