藤井七段、最年少タイトル王手!渡辺棋聖を連破、進化の矢倉90手「積極的に動いた」

[ 2020年6月29日 05:30 ]

第91期棋聖戦5番勝負第2局 ( 2020年6月28日    東京・将棋会館 )

和服姿で渡辺棋聖に連勝した藤井七段(日本将棋連盟提供)
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 金字塔に「王手」だ。史上最年少棋士・藤井聡太七段(17)が第2局で王者・渡辺明棋聖(36)を圧倒。後手番ながら90手で勝利をつかみ、開幕2連勝とした。タイトル戦初出場での初奪取まであと1勝。次局は17歳11カ月で迎える7月9日。屋敷伸之・現九段の持つ最年少タイトル獲得記録、18歳6カ月を大きく更新する可能性が高まってきた。

 将棋会館に詰める先輩棋士たちがぼうぜん自失の表情でモニターを見つめている。日々進化を遂げる17歳の完璧な指し回しを目の当たりにし、もはや言葉が出ない。

 「負けました」と3冠王者が投了した午後6時38分。終盤に粘るチャンスすら与えない完勝だった。

 第1局に続き、序盤の戦型は両者とも矢倉の「相矢倉」に進むかに見えた。通常の矢倉は、王を守る金や銀の前に歩を置き、じっくりと腰を据えて相手の出方をうかがう戦法。ところが藤井は守りの要となる金銀銀3枚を、先頭を切って進むはずの歩の前に並べる好戦的な形に展開した。

 「やってみたい作戦があり、積極的に動いた。でも自王に壁があって薄いので、難しい局面が続いていたと思います」

 直後の46、48、50手の3手に計137分を投じ、持ち時間では1時間22分ものハンデを負ったが、中盤から正確無比にリードを広げていく。わずか90手、約9時間半に及ぶ対局に終止符が打たれると、渡辺は「大胆な指し方でこられた。一気に駄目になった」と脱帽した。

 この日、藤井はファン待望の和服姿で対局場に現れた。師匠の杉本昌隆八段(51)から贈られた逸品だ。昨年8月11日のJT杯(福岡=対三浦弘行九段)以来、322日ぶりの晴れ姿。もちろんタイトル戦では初めてだ。慣れない和装に「長時間の対局では初めて。どんな感じか分からないことはあった」と明かすものの「着てみると思ったより快適。普段通りにやれたのかな」と影響なしを強調。スーツとはまた違う「戦闘服」を身に着けて、むしろ迫力が増している。

 積極的な指し回しで、昨年度の最優秀棋士に大差をつける開幕2連勝。「ここまでうまく指していると思う。次戦も気負わずに臨みたい」と落ち着いて話した。来月9日の第3局では有利な先手番。この日、立会人を務めた屋敷の記録を30年ぶりに塗り替えるチャンスでもある。「5番勝負は5局で一つの勝負。次も今までと変わらない気持ちで」。色めき立つ周囲とは対照的に藤井の精神力はぶれていない。異次元の世界をひたすら突っ走っている。(我満 晴朗)

 《史上初“初挑戦からストレート”なるか》藤井がタイトル初挑戦で保持者からストレートでの奪取に成功すれば、棋聖戦では初めて。全タイトル戦では98年の竜王戦で、同姓の藤井猛七段が振り飛車の画期的な戦法「藤井システム」で谷川浩司竜王から4連勝して以来、22年ぶりの快挙になる。なお保持者のいないタイトル戦初年度では、18年叡王戦でトーナメント方式の決勝が7番勝負となり、高見泰地六段が4連勝で初挑戦初獲得に成功している。(肩書は当時)

 《V率84%》過去90回行われた棋聖戦5番勝負で連勝発進は49回あり、奪取または防衛した例は41回。V率は84%。一気に3連勝したのは29回ある。

 《勝率恐るべし9割1分1厘》矢倉は相居飛車戦で古くから指されてきた主流戦法の一つ。序盤は角を交換せず、左桂の上に囲った王を金2枚と銀1枚で守る。金1枚と銀2枚の銀矢倉など変化型もある。じっくりとした重厚な戦いになりやすい。藤井は2016年12月24日のプロデビュー戦で加藤一二三・九段(80)と対戦した際にも矢倉の戦法を用いた。段位を上げるごとに使用する頻度が増え、通算成績は45戦41勝。勝率は9割1分1厘となっている。

 ▽棋聖戦 将棋8タイトル戦の一つ。1962年創設、94年まで年2度開催。現在は1、2次予選を経て16人で決勝トーナメントを戦い、勝者が6~8月に保持者と1日制の5番勝負に臨む。決勝トーナメントと5番勝負の持ち時間は各4時間で、勝者が棋聖のタイトル称号を得る。

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