“芸術家”TERU ベネチアのガラス工房で見つけたグレートな夢

[ 2017年7月11日 10:20 ]

土田康彦氏(左)の工房で、ハートにタコが乗ったベネチアングラスを作るTERU
Photo By スポニチ

 ステージで挑発的に両手を広げ、パワフルに歌い上げるロックバンド「GLAY」のボーカル、TERU(46)。そのエネルギーになっているのが、絵を描くことだ。「一日中描いていられる」というほど好きで、最近はその絵をガラス工芸で立体化するほどの熱の入れよう。その熱がバンドにも新たな風を吹き込もうとしている。

◎ひらめき大切に二次元を3Dへ

 黒のマジックペンをササッとA4サイズの紙に滑らせた。描いたのは人気漫画「ONE PIECE」の主人公ルフィのイラスト。1分足らずの早業だった。

 「同じイラストを(3月に)ツイッターにきまぐれで載せたら、(上手すぎると)ネットニュースになってて驚きました」

 昨年6月には超大作に挑んだ。キャンパスは畳一畳ほどの巨大な木の板。「ふっと思いついたものを描く」と、筆を手にした。下描きもせず10分ほどで一気に描き上げたのは、躍動感に満ちたタコの絵だった。

 「絵を描くと無心で没頭できてリラックスできるんですよ。フットサルとかスノーボードで体を動かすのも好きだけど、こういう地味な作業も性に合ってる」

 絵にとどまらない。今、最も夢中になっているのは、描いた絵をベネチアングラスにすることだ。

 今年2月、イタリア・ベネチアのムラーノ島にある友人の世界的ベネチアングラスアーティスト、土田康彦氏の工房を、8カ月ぶりに訪れた。タコの絵をベネチアングラスにすべく、しゃく熱の炉を使ったガラス細工に挑んだ。

 「元々土田さんの作品が好きで、仕事ぶりを見せてもらった時に“自分もやりたい”と思って昨年初めて作らせてもらった。二次元の絵を3Dにするのが楽しい。来年も再来年も作りに来たい」

 制作中にふと「ハートも」と言い、急きょデザインを変更。ハートの上にタコが乗っているガラス工芸に仕上げた。

 「急にハートがひらめいた。タコの絵の時も、ふとタコが思い浮かんだから描いた」。芸術家TERUは、インスピレーションを大切にしている。

◎歌より先に開花 仕事に画力発揮

 歌よりも先に才能を開花させたのが絵だった。小学3年の時、写生会で描いた寺の絵が北海道の絵画コンクールで銅賞を受賞した。

 「幼い時から姉と一緒にウルトラマンとかアラレちゃんとか、よく描いていた。ずっと左手だけ描いていた時期もあった。左手を見ながらどれだけリアルに描けるかって」

 描いたイラストがGLAYのポスターに採用されるなど、仕事でも画力を生かしてきた。94年のメジャーデビュー後は、音楽への劣等感が絵の創作意欲をかきたてた。

 「声がいいっていうだけで、TAKUROたちみたいに歌が作れない。音楽で表現できない内面的なものを絵で代わりに表現してきた。母親が絵を褒めてくれた記憶が残っているので、潜在的に褒めてほしいという思いがあったんだと思う」

 音楽家として自信をつけたのは「BLEEZE」(14年)。作詞作曲した歌がシングルの表題曲になったのは初めてで「ようやくGLAYの一員になれた」と思えた。アート同様、ひらめきに忠実になって作った楽曲の評価は高く、好影響をもたらした。

 ベネチアに通うことで新たな夢も見つけた。観光名所でもあるサンマルコ広場でGLAYのコンサートを開くことだ。

 「土田さんに“ここでGLAYのライブが見たい”と言われた。最初は絶対無理って思ったけど、やれるんじゃないかっていう気持ちがどんどん湧いてきた」

 昨年7月、ファンクラブ結成20周年記念ライブで、事前に誰にも知らせず「30周年の時はサンマルコ広場でやりたい」とぶち上げた。ステージ上でファンに約束し、周囲を巻き込んで実現させていくのはTERUの“常套(じょうとう)手段”だ。

 ところでなぜ、ベネチアングラスの形がタコとハートになったのだろうか。

 「サンマルコ広場でやる10年後までファンのハートをがっちりと、タコが絡むようにつかんでおきたい。今振り返れば、そんな精神状態が形になったんだと思います」

 音楽家として芸術家として、感性を信じて表現していく。日本のロック界を代表するカリスマボーカリストは、夢という大きな絵を、じっくりと時間をかけて描き上げていく。

 ◆TERU(テル)1971年(昭46)6月8日、北海道生まれの46歳。88年に小中学校の同級生だったTAKUROに誘われ、GLAYを結成。94年にシングル「RAIN」でメジャーデビュー。99年7月、千葉・幕張メッセ駐車場で行った公演で、単独公演では世界最多とも言われる20万人を集め、社会現象に。ヒット曲に「HOWEVER」「誘惑」など。02年にPUFFYの大貫亜美と結婚。

続きを表示

この記事のフォト

2017年7月11日のニュース