デヴィッド・リンチ監督は分からないから面白い

[ 2017年7月9日 09:00 ]

【牧元一の孤人焦点】分からない。何がどうなっているのか?いろいろ推察してみるが、答えが見つからない。不可解だ。しかし、決して不愉快ではない。ここまで理解できないと、むしろ面白い。笑いさえこみあげて来る。どうしても先が見たくなる。WOWOWで先行放送された「ツイン・ピークス The Return」の第1章から第4章までを見た率直な感想だ。

 この作品は1990年から91年にかけて米国で放送されたドラマの続編。前作は日本でもWOWOWなどで放送され、その特異な作風が人気を呼んだ。

 制作総指揮はデヴィッド・リンチ監督とマーク・フロスト氏。リンチ監督は映画「エレファント・マン」(80年)「ブルーベルベッド」(86年)などで知られ、カンヌ国際映画祭パルム・ドールを「ワイルド・アット・ハート」(90年)で受賞している。要するに、世界的な名監督だ。

 しかし、その作品は「ロスト・ハイウェイ」(97年)から難解になった。「ストレイト・ストーリー」(99年)はまともな物語だったが、「マルホランド・ドライブ」(01年)は2、3回見ただけでは内容を理解できなかった。その映像は現実の世界のことなのか非現実の世界のことなのか、どこまでが実像でどこからが虚像なのか。そもそも主人公は誰なのか…。何もかも混沌(こんとん)としていた。

 それでも、「マルホランド・ドライブ」は何度か見直すうちになんとなく分かってきたからまだ良かった。現時点でリンチ監督の最後の長編映画「インランド・エンパイア」(06年)に至っては、公開から10年以上たち、既に10回以上見たにもかかわらず良く理解できていない。いや、全く理解できていないと言った方が正しいかもしれない。映画女優の物語のはずだが実はコールガールの物語なのか、米国の物語のはずだが実はポーランドの物語なのか…。この作品を正確に理解できる人は世界にどのくらいいるのだろう。結局、正解はリンチ監督の頭の中にだけあるのではないか。新作「ツイン・ピークス The Return」の作風も間違いなくこの延長線上にある。

 人によっては、分からないということは不愉快に違いない。作品というのは本来、多くの人に理解してもらい多くの人に感動してもらうことを趣旨としているはずだ。ところが、リンチ監督は理解してもらうことをほとんど無視している。分からない人は分からないままでいいとその作品は語っている。そんな不遜とも言える態度を拒絶する人は多いだろう。しかし、私はリンチ監督の作品が好きだ。全く世間を意識せず自分が描きたいものだけを描き切る潔さがある。「良く分かるけれど、面白くない」より「分からないけれど、とても面白い」がいい。 (専門委員)

 ◆牧 元一(まき・もとかず)編集局文化社会部。放送担当、AKB担当。プロレスと格闘技のファンで、アントニオ猪木信者。ビートルズで音楽に目覚め、オフコースでアコースティックギターにはまった。太宰治、村上春樹からの影響が強い。

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2017年7月9日のニュース