押尾被告に求刑6年「軽すぎる」と異論噴出

[ 2010年9月15日 06:00 ]

傍聴を希望する大勢の人々

 合成麻薬MDMAを一緒にのんだ女性を救命せず死亡させたとして、保護責任者遺棄致死罪などに問われた元俳優押尾学被告(32)の裁判員裁判が14日、東京地裁で結審した。検察側は「自己保身のために被害者を見殺しにした」として懲役6年を求刑。昨年の判決で執行猶予中の刑(懲役1年6月)が加算されることを加味したとしているが、法曹関係者からは「軽すぎる」と異論が噴出した。判決は17日午後3時から言い渡される。

 この日は第7回公判。検察側は論告で「専門医に治療させれば救命できた。仕事や家族を失うと考えて119番しなかったのは明らかに不保護に当たる」と指摘。「常習的に薬物を使用しており再犯の恐れが高い。不合理な弁解に終始して反省も皆無」と非難した。
 求刑は6年。押尾被告は昨年11月、麻薬取締法違反(使用)罪で懲役1年6月、執行猶予5年の判決を言い渡されている。17日に求刑通りの有罪判決が言い渡されれば執行猶予が取り消されるため、検察側は「量刑に(懲役)1年6月が加算されることを加味した」と説明。「過去の類似例も考慮した」と付け加えた。
 薬物に関する保護責任者遺棄致死罪の事例では、少女に覚せい剤を注射した男が、少女が錯乱状態となったことで覚せい剤の使用発覚をおそれ、そのまま放置し死亡させたとして、89年に最高裁は懲役6年の判決を言い渡している。この時の求刑は8年だった。
 「保護責任者遺棄罪」の量刑は5年以下の懲役だけに、「保護責任者遺棄“致死”罪」としてはギリギリの求刑にもみえる。元東京地検検事の大沢孝征弁護士は「求刑は10年ぐらいではないかと思っていた。6年は予想外の少なさ。検察としての見識はいかがなものか」と疑問を呈した。89年と比べ、被害者の飲食店従業員田中香織さん=当時(30)=は薬物を自ら服用しているものの「当時の最高刑は15年。現在は20年に引き上げられている。単純に比べることはできない」と解説。また、「わざわざ裁判を(昨年10月の)麻薬使用と切り離した。前の量刑など配慮する必要はなく、今回は今回だけで判断すべきだ」と話している。
 押尾被告はこの日、最終陳述で「田中さんを見殺しにするようなことは絶対していません」と直立不動で述べた。弁護側は「容体急変後は一生懸命に人工呼吸と心臓マッサージをしており(田中さんを)放置していない」と、保護責任者遺棄致死とMDMA譲渡の2つの罪をあらためて否認。主張内容の概要をモニターに分かりやすく映し出し、裁判員にアピールした。
 東京地裁は、当初休廷日としていた15日を終日評議に当てることを決めた。16日も行う予定で、14日午後から3日間の連日評議となる見通し。

 ▽昨年の裁判 同8月2日、東京・六本木ヒルズのマンション一室でMDMAの錠剤を若干量のんだとして麻薬取締法違反(使用)罪に問われ、同10月23日に東京地裁で開かれた。押尾被告は田中さんからMDMAを1錠もらって使用したと証言。最終陳述で「同じ過ちは犯しません」と謝罪した。検察側は懲役1年6月を求刑。同11月2日の判決は「MDMA使用の経緯など法廷での説明は不自然で信用しがたい」と執行猶予期間としては最長の5年を適用した。

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2010年9月15日のニュース