つかこうへいさん「僕は闘わなくちゃいけない」

[ 2010年7月12日 10:59 ]

1983年6月、NHK銀河テレビ小説・つかこうへいの「かけおち」のセットで、出演者の(左から)長谷川康雄さん、大竹しのぶさんと握手するつかこうへいさん

 「心正直に生きて傷つく人のために、僕は闘わなくちゃいけない」。同性愛者やマイノリティー…。10日死去した劇作家つかこうへいさんの作品には常に、差別やいじめを抱え込んで生きていく人々の目線があった。

 つかさんは在日韓国人だった。生前、そのことを隠しもせず、声高にも語らなかったが、エッセー「娘に語る祖国」(光文社、1990年)では、在日であるがゆえのつらい体験と、祖国に対する複雑な思いをユーモアに包み、語りかけるように平易な言葉でつづった。
 その7年後、従軍慰安婦に焦点を絞り、「人間とは」「生きることとは」を問うた「娘に語る祖国『満州駅伝』―従軍慰安婦編」も刊行。重いテーマだが、あえて軽快な展開にし、小さな希望が持てるように描いた。「こういう発言ができるのは僕くらいしかいないから。韓国人だからできた。作家も無力ではないし、あえて書くことが役割かもしれない」
 本名は金峰雄。だが生活はすべて日本式で、韓国語も十分には話せない。在日だからこその立場の難しさも感じ、両親が亡くなると「祖国とのつながりが分かりにくくなってきた」と話した。
 「権力と闘う姿勢は変わりません」。作家を突き動かしてきたのは、傷ついても声を上げられない人に寄り添う、深い共感だったのかもしれない。

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2010年7月12日のニュース